第18回はViVi専属モデルとして活躍しながら、タレントやYouTuberとしても活動している藤井サチさんです。4回構成の2回目は、モデルとして活動してきた中で考えた「美しさ」のことや、摂食障害の過去について語ります。
摂食障害からリバウンドして気づいたこと
アルテイシア(以下、アル):私は共学の大学に進んで、男子からブス・デブと言われ、ダイエットにハマって過食嘔吐するようになりました。当時は「自分がブスでデブだからダメなんだ」と自分を責めたけど、フェミニズムに出会って「パーソナル・イズ・ポリティカル(個人的なことは政治的なこと)」というスローガンを知って、救われたんです。人の容姿にああだこうだ言う方がおかしいし、ルッキズムを容認・助長している社会に問題があると気づきました。
藤井サチ(以下、藤井):私も摂食障害になって数年間治療をした経験があるんです。15歳のときにモデルを始めて、誰かに痩せるよう言われたわけでもないのに「もっと痩せなきゃダメだ」って思っちゃって。そこから世の中にある全てのダイエット方法を試して、身体を痛めつけるようなダイエットもしました。
それで一旦は痩せたものの、心身のバランスがとれなくなって、過食嘔吐するようになって。結局、ストレスで12kgリバウンドをしました。当時はメディアの価値観も古かったので「もう少し痩せないと撮影に呼べない」と言われて、ストレスを感じてもっと太ってしまう……という負のスパイラルに陥りました。
アル:それはつらかったですね……。成長期の体重が増えるべき時期に「痩せなきゃダメだ」と思いつめると、過激なダイエットに走っちゃいますよね。
藤井:当時、私が憧れていたのは「ヴィクトリアズ・シークレット」のモデルで、人間離れしたプロポーションの方々がかっこよく歩いてました。でも世の中の変化とともに、ヴィクトリアズ・シークレットでも体型や肌の色など多様なモデルが起用されるようになった。そのときに「痩せている=美しい」というメッセージを勝手に受け取っていたと気づきました。
アル:女性は男性の10倍も摂食障害になりやすいそうです。それだけ「痩せている=美しい」という呪いが強いんですよね。
ティーンに人気のモデルやアイドルはスリムな体型ばかりで、それを理想にしてしまうと「自分はなんて醜いのだろう」と思わされてしまう。だからこそ、多様な美のロールモデルが必要だと思います。
藤井:当時、街中で脱毛や整形の広告の「綺麗になれ」というメッセージをたくさん目にすることにも気づいて。そういうものから自分に呪いをかけていたのだと腑に落ちました。フェミニズムを勉強していく中で、私が感じてきた生きづらさは政治や資本主義社会の構造の問題であって、自分のせいじゃないと思えたとき、すごく楽になりました。
アル:モデルのお仕事をしていて、今でも「痩せなきゃ」と思ったり言われたりはしますか?
藤井:モデル業界はここ2、3年で良い方向に変わってきたと思います。最近の大きなファッションイベントでは、モデルを本業とする方だけでなく、YouTuberさんも出演するようになって、一番声援が大きかったりする。雑誌もかつては「夏までにマイナス3キロ」「男性にモテるためのコーディネート」といった特集だったけど、今は「自分モテ」という方針になってます。
それでも「どうしたら痩せられますか?」というDMが届くので、痩せてる方が綺麗だと思う子が多いと感じます。私は3年ほど前にYouTubeを始めたんですよ。クリックしてもらえることは大事なので、サムネイルには「マイナス12キロ達成した方法」といった強い言葉を書くんですけど、動画内では「なんで痩せたいと思うんですか?」と問題提起する内容にしてます。
アル:動画を見た人が呪いに気づくといいですね。日本の若者は自己肯定感が低いと言われますが、社会や教育の責任が大きいと思います。
フィリピンと日本のミックスルーツの20代の女友達がいるんですけど、同級生の男子から肌の色をからかわれて、コンプレックスを刷り込まれてしまって。SNSに載せる写真も、美白アプリで肌の色を明るくしてたそうなんです。
でもインターナショナルスクールに通っていた女友達から「そのままのあなたが最高だよ!」と言われて、呪いが解けたんだとか。その後は補整なしで写真を載せられるようになったと話してました。
言葉は呪いになることもあれば、呪いを解いてくれることもあるんですよね。「細かいこと気にしなくても」とか言う人には、言葉の力をナメるなと言いたい。
藤井:その「白い方が美しい」という価値観って日本特有のものですよね。私も「肌白いね」と言われることが多いのですが「だからなんだろう」というのが正直なところです。ニューヨークの友達に話したら「日本って不思議だね。焼いてる方がセクシーじゃん!」と言われました。
アル:スウェーデン在住の親せきも、すきあらば日光浴してますよ。日本の女性が日傘とサンバイザーとUV手袋で完全防備しているのを見て「吸血鬼?」って聞かれました。
藤井:シミとか肌の老化がイヤで日焼け止めを塗るのは理解できるんですけど、とにかく白くなるためにあれこれするのは意味がわからなくて。これも「美白は良いもの」という刷り込みですよね。
ただ、ジェンダーもルッキズムも価値観をアップデートできてない人もいますが、必ずしも個人のせいではないと思っていて。私の祖母は90歳ですが、「いつ結婚してくれるの? 子どもはいつ?」と毎回言われて「私は今は結婚したくないし、仕事が楽しいから、もう少し待っててね」と対話するようにしてます。私は運良く価値観をアップデートする機会があったものの、そうじゃない人も多いですし、穏やかに伝えられるくらいの心の余裕は持てるよう意識してますね。
アル:そうそう、私は「みんなアップデートの途中」を標語にしてるんですよ。保育園からジェンダー教育をする北欧なんかと違って、私たちは学校でジェンダーについて教わる機会がなかった。それは個人の責任じゃなく、政治や社会の責任ですよね。
だから、知らなかったり間違ったりすることを責めすぎるのもどうかと思うんですよ。一度も間違ったことのない人なんていないし、間違いを指摘されたときに反省して改善できることが大切ですよね。「俺は間違ってない!!」と逆切れする政治家とかは、鬼に食われてしまえと思いますけど(笑)。
私はよく出張するんですが、年輩の女性から「旦那さんは許してくれるの?」と聞かれて、その瞬間は「なんで夫の許可が必要なんや」とモヤるんですよ。でも、その世代の女性たちは何をするにも夫の許可が必要だった、自由を奪われてきたんだなあ…と考えると「お疲れ様でした」といたわりと友愛の気持ちが湧くんです。だから「家父長制を憎んで罪を憎まず」も標語にしてます。
藤井:私もまだまだ勉強を始めたばかりで、間違えてしまうこともあって。この間、お子さんが産まれたばかりの女性スタッフの方に「今日は夫さんが見てくださってるんですか?」って聞いちゃったんです。あとから、男性にはそういう聞き方をしないのだから女性にだけ聞くのはおかしいかも? と思って「さっきはこういう言い方をしちゃってごめんなさい」って謝りました。
アル:おお~素晴らしい!! 「男女逆だったら言うか?」と考えると、無意識のバイアスに気づけますよね。
私の女友達は出産後半年で仕事復帰して、夫が1年半の長期育休を取って子育てしてるんですね。彼女は「あなた幸せ者ね~旦那さんに感謝しなきゃ」と言われまくってうんざりしてます。そのたびに「ですよね~」と笑顔で同調せず、「男女逆なら言いませんよね?」と真顔で返すそうです。
藤井:そんなふうに相手に伝えることによって、気づきの輪が広がるんじゃないかなって思います。
次回、第3回では、セクハラや性暴力に対してどうしたらいいのか学んだ話と新たに気づいたことについて話します。
構成:雪代すみれ
読んでいただきありがとうございます。
ぜひ作品へのご感想・応援メッセージをお寄せください。
作者・編集部で拝見させていただきます。
1997年生まれ、東京都出身、在住。日本人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれた3人きょうだいの末っ子として育つ。2011年、14歳の時にスカウトされ、モデルに。2012年より「ミスセブンティーン」専属モデルに、2017年に「ViVi」専属モデルになる。2019年に上智大学を卒業し、現在はモデル、タレント、YouTuberとして活躍中。