第19回 藤井サチ×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第19回はViVi専属モデルとして活躍しながら、タレントやYouTuberとしても活動している藤井サチさんです。4回構成の3回目は、セクハラや性暴力に対してどうしたらいいのか学んだ話と新たに気づいたことについて話します。

 

当時はそれが性暴力だとわからなかった

 

藤井サチ(以下、藤井):アルテイシアさんの本にも書かれてますが「アクティブ・バイスタンダー(行動する傍観者)」という言葉を最近知りました。痴漢やセクハラの現場に居合わせた時、声をかけるだけでもいいと知り、今までは介入するなら最後まで責任を持たなきゃと思っていたので、ハードルが下がった。ぜひ多くの人に知ってほしいです。

アル:2020年に性教育YouTuberのシオリーヌちゃんと動画を作って、当時も話題になったし、最近はNHK『あさイチ』でも取り上げられました。

被害者は周囲の無関心にも傷つくので、後から「大丈夫ですか? 警察行きますか?」と声をかけてもらうだけでも、社会に対しての信頼を回復できるし、支援にも繋がりやすくなる。最近は第三者介入の5D(Distract:注意をそらす、Delegate:第三者に助けを求める、Document:証拠を残す、Delay:後からの対応、Direct:直接介入する)がメディアで取り上げられることも増えましたね。

藤井:痴漢の話をしたとき、女の子たちが当たり前のように被害に遭った経験を話しているのがおかしいって、最近やっと気づいたんです。

アル:痴漢に遭うのが当たり前という社会が地獄ですよね。「春は変な人が増えるから」とか季節の風物詩みたいに語られるのもおかしい。自然現象と違って、性犯罪は加害者がいなければ無くなるんだから。

藤井:性欲は生理的なものだから、こちらが服装に気をつけるとか予防しないといけないって、以前は諦めてたんですよ。

アル:排泄の欲求も生理的なものだけど、職場でおしっこやうんこをまき散らしたりしませんよね? セクハラだって上司や取引先にはやらないわけで、自分より立場の弱い相手を選んでやってるんです。「男は性欲を我慢できない」とか言うけど、大多数の男性は痴漢なんてしないんだから、男性に対しても失礼ですよね。

電車内の痴漢が減るのは7月・8月だそうです。なぜなら中高生が夏休みになって電車に乗らなくなるから。それだけ子どもが狙われてるんですよ。

「薄着だと痴漢に遭う」というイメージは間違いなのに「そんなに露出してるから」と痴漢に遭った被害者が責められる。スリに遭った人に「そんな高そうな服を着てるから」とは言いませんよね? 性暴力の被害者を責めるのは二次加害だということも、ようやく知られてきました。

藤井:二次加害が怖くて声をあげられない被害者は多いですよね。それでも声をあげた人たちに連帯したいです。

アル:「昔はよかったな~最近は窮屈な世の中で生きづらい」とボヤくおじさんには「そうですか、私は生きやすいです」と返しますけど、昔は被害者が声をあげられなかっただけなんですよ。「昔はおじさんが気軽にお尻に触ってきてよかったな~」なんて懐かしがる女性は見たことがない。

私が広告会社に入った26年前は、部長が「おはよう」って秘書さんの胸をつかんでました。それを見て「この修羅の国で生きていくのか」と震えたけど、おじさんが気を使わない世界ってそういう世界なんですよ。だから気を使って窮屈にしてるぐらいがちょうどいいんです。挨拶がわりに胸や尻に触るおじさんが駆逐されたのは、「セクハラするな」と声をあげてきた先輩たちのおかげですよね。

藤井:本当にそうですね。大物の男性芸人の性暴力に関する報道がありましたが、現場で「何年も前のことをなんで今更言うんだよ」って言ってる人がいて。私も以前、飲み会で男性に「おっぱい大きくなった?」って突然胸を触られたんですね。

アル:なんちゅうことするんや。

藤井:そのときはブチ切れて帰ったんですけど、当時はそれが性暴力だとわからなくて、時間が経ってから気づきました。相手が上司でも取引先でもなかったから、怒って帰るという選択ができたんだろうなって思います。

アル:被害者は「性被害を受けた、ひどい目に遭った」という事実を直視するのがつらくて「認めたくない」という心理もはたらきますし、被害について話せるようになるまで時間がかかることは、さまざまな調査でもわかっています。#MeToo以降、性暴力を告発する人が増えて「今の時代なら聞いてもらえるかも」と思った人、声をあげた先人たちに背中を押された人もいるでしょう。

「ホテルの部屋に行った女が悪い」という二次加害の声が溢れてますが、「部屋で飲もう」と誘われて「いいですね、飲みましょう!」と部屋に行ったとしても、同意したのは「部屋で飲むこと」だけ。そんなの九九で言ったら一の段ですよ。

それにもし男性が「業界の大先輩が来るから飲みにおいでよ」と誘われたら行きますよね? 仕事につながるかもしれない、アドバイスがもらえるかもしれないって期待するし、そういう姿勢は「やる気がある」と評価されるでしょう。それが女性だと「行った方が悪い」「枕営業」と二次加害される、いまだにここは修羅の国です。

藤井:芸人さんの件でいうと、被害を告発した女性が送ったお礼メッセージの報道を見て、最初は混乱したんです。でも、被害者が自分の心を守るために迎合するケースが多いことを知りました。

アル:「迎合メール」という名前があるくらい、ありふれた行動なんですよね。あの報道を見て過去の被害がフラッシュバックした、という女性は多いです。

私も取引先のおじさんに無理やりキスされた翌日「昨日はありがとうございました」とメールを送りました。相手を怒らせて仕事を干されるのが怖かったから。男性だって業界の大先輩にパワハラされても同じ行動をするんじゃないですかね。

藤井:「迎合メール」も世間的にはまだ広く知られてないことなので、報道する側も「被害者心理として迎合する傾向があります」と一言でも説明を入れてほしいです。じゃないと、二次加害を煽るようなことになりかねませんよね。


次回、最終回では、恋愛やストレスを解放するセルフケアについて話し合います。


構成:雪代すみれ

 

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藤井サチ

藤井サチ

1997年生まれ、東京都出身、在住。日本人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれた3人きょうだいの末っ子として育つ。2011年、14歳の時にスカウトされ、モデルに。2012年より「ミスセブンティーン」専属モデルに、2017年に「ViVi」専属モデルになる。2019年に上智大学を卒業し、現在はモデル、タレント、YouTuberとして活躍中。