第23回 武田砂鉄×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第23回は、ラジオやコラムなどで活躍しており、時事問題などを繊細に深く分析するフリーライターである武田砂鉄さんです。4回構成の3回目は、男女間のジェンダーギャップについて話し合います。

 

ノットオールメンはもう聞き飽きた

アル:パートナー間のジェンダー意識のギャップに悩む声は多いのですが、どうすれば男女はわかり合えると思いますか?

武田:完全にわかり合うのを目指す必要はないとは思います。わかり合えなさの余白に関しての合意というのか、妻とはそれがあると思ってます。もちろん、あっちがどう思っているかはわかりませんが。相手のこういうところはわからないけど、それに対して根こそぎ否定しないようにする。相手も同じように思ってくれれば、わかり合えない状態でも健全に共存できるんじゃないかなって。

アル:それは砂鉄さんのジェンダー意識が高いからかもしれません。私は妻側が苦しんでる声をよく聞くんですよ。普段は良い夫なのに、痴漢の話をすると「冤罪もあるよね」と返すとか、ジェンダーや性暴力の話になるとバグる男性はあるあるです。

武田:たしかに、男全体が言われてると勘違いする人は多いですよね。痴漢やセクハラ議員やぶつかりおじさんの話をしてるのに「男がみんな悪いわけじゃない!」と勝手に主語を拡大するとか。「いや、男全体の話をしてるわけじゃなくてですね」と毎回説明しなきゃいけないのはしんどいですよね。

アル:あなたべつに男代表じゃないよね?っていう。「ノットオールメンはもう聞き飽きた」というコラムを書いたんですけど(『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』(幻冬舎文庫)収録)、「そんな男と一緒にされたら迷惑だ」と思うなら、それを被害者じゃなく加害者に言ってほしい。居心地が悪いからという理由で、こちらの言葉を遮らないでほしい。目の前の女性の言葉に真摯に耳を傾けてほしいんです。

武田:痴漢やセクハラをする人がいない世界を目指す、なぜそれができないかというと、女性が意見を言う状況が広まることを歓迎しない感情があるのかもしれない。だとすると、あれ、それ、一段下に見ていないっすかと。

アル:痴漢やセクハラの話をすると「責められてるみたいでつらい」「怒られてるみたいで怖い」っていう男性がいるけど、多くの女性は現実に被害に遭ってるわけですよ。
性被害に遭って電車に乗れなくなったり、学校や会社に行けなくなったり、鬱病やPTSDに苦しんだり、命を絶ってしまう人もいる。居心地が悪いぐらい我慢しろよって言いたいです。「責めてないよ~怖くないよ~」ってそこまでケアを求めるのかって。

武田:居心地の悪さと性被害に遭うことはイコールじゃないのに。それぐらいわかれよっていうか、そんなことも想像できねえのかよってことが、とりわけジェンダーの問題に関してはあれこれ残りすぎていますよね。

アル:「これもセクハラになっちゃうカナ?」とか「だったらセクハラの定義を教えてよ」とか言ってくるおじさんには「ググレカス」と返します。そういう人ってセクハラに問題意識を持ってるわけじゃなく、女に言い返す時のカウンターでしか言ってこなくて、女の口を塞ぎたいだけなんです。だから相手するだけ無駄なんですよ、無駄無駄無駄。

武田:ギリギリのラインを攻めようとする謎の欲求がありますよね。こちらが「ここからはダメです」と限界点を示さないと「何も言えなくて怖い」という振る舞いをする。常にハラスメント要素が入り込んでいる発言しかできない自分を変えようとしないのが不思議です。

アル:その手のおじさんは女の声には耳を貸さないので、男性が声をあげる効果は大きいと思います。女が「痴漢するな」と言っても「自意識過剰」「ババアのくせに」と揶揄されるけど、男性が言うとスンっとなって聞くじゃないですか。

ただ、声をあげる男性を「チンポ騎士団」と揶揄して呼ぶ人々もいますよね。それに対して『マチズモを~』に書かれていた『チンポとはいえ騎士団とついているからには悪に立ち向かう正義漢の一人にカウントされているのかと思い、「いえいえそんな」と謙遜する準備を整えていた』というくだりが面白かったです(笑)。

武田:ジェンダーの話をすると「モテたいの?」と言われることが多々あります。なんかもう笑っちゃう理解で、モテたいのであれば、別のやり方をするんじゃないかなと。でも、男女の関係性を問う延長線上に必ず恋愛がらみのゴールがあると考えている人には、どうしたって、そう解釈されてしまうんだなって。

アル:彼らは下心がないと女に優しくしないんでしょうね。「男に性欲がなくなったら女に優しくしないぞ」とか言うけど、あなたに優しくされなくて結構ですから近寄ってくるなとしか。

武田:ふふふ、それしか言いようがないですよね。


次回、最終回では男社会が女性に強いてきたものとその対応について語り合います。


構成:雪代すみれ

 

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武田砂鉄

武田砂鉄

1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で時事問題やノンフィクションの本の編集勤務に携わり、2014年よりフリーランスに。2015年『紋切型社会』(朝日出版社刊)で「第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞、2016年「第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。他の著書に『マチズモを削り取れ』『わかりやすさの罪』『なんかいやな感じ』など多数。現在は、TBSラジオ『武田砂鉄のプレ金ナイト』、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』(火曜レギュラー)などのパーソナリティほか、「AERA」「女性自身」「日経MJ」など多数の雑誌でコラムを連載中。