第17回 藤井サチ×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第17回はViVi専属モデルとして活躍しながら、タレントやYouTuberとしても活動している藤井サチさんです。4回構成の1回目は、フェミニズムや政治に興味を持ったきっかけについてお伺いしました。

 

フェミニズムや政治に興味を持ったのは

アルテイシア(以下、アル):『ViVi』2023年7月号で、藤井さんは長谷川ミラさんとフェミニズムについて対談してましたよね。私も同じ号で取材を受けたのですが、若い女性向けのファッション誌でフェミ特集が組まれることに時代の変化を感じました。フェミニズムに興味をもったきっかけってありますか?

藤井サチ(以下、藤井):母がフェミニストという環境で育ったのですが、実際にどういうものかは最近まで知りませんでした。男性から「フェミニズムは可愛くない女性が考える問題だ」と言われて衝撃を受けたこともあります。

アル:令和になっても「フェミニスト=ブスのババア」で時が止まってる人がいますよね。私は「古風な考えですね~安土桃山生まれですか?」と返します。

藤井:(笑)。フェミニズムについて勉強するようになって、こんなに楽しいんだ!って感じてます。

アル:そうそう! フェミニズムを学ぶと世界の見え方が変わるから、楽しいんですよね。若いファンの多い藤井さんがそんなふうに発信してくれて嬉しいです。「フェミニズムって楽しそう」って思ってもらわないと、フェミニズムが広がらないから。

藤井さんは『ViVi』のフェミニズム特集で、クオータ制(※)について「政治や経済は、今が男性に偏り過ぎていておかしいんだから、それを是正していこうってだけだよね。女性を公平なスタートラインに立たせてほしい!」と話してますよね。その通り!と膝パーカッション祭りでした。政治に興味を持つきっかけはあったんですか?

※性別や人種など構造的な差別を受けているマイノリティに対し、一定数の席を割り当てること。

藤井:24歳になった頃から、友達が次々に結婚し始めたんですけど「子どもが欲しいけど、経済的な理由から今は無理」と言っていて。子どもが欲しいのに持てないなんておかしくない? と調べてみたら、30年間賃金が上がってないことや、社会保険料の負担が増えていることを知って、政治が私たちの生活に大きく影響してることを実感しました。国会議員の84%が男性(※2024年4月現在)なら、男性中心に社会が作られていくのも当然だと思います。

www.shugiin.go.jp

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アル:「女性に家のことを丸投げして長時間労働できる男性」を基準に社会が作られてますよね。日本の政治分野のジェンダーギャップ指数は146カ国中138位で世界ワーストレベルです。

2000年には世界の半数以上の国で女性議員は1割未満だったのが、クオータ制によって女性議員がどんどん増えました。今では130以上の国と地域がクオータ制を導入してるけど、フランスなど諸外国も罰則がないうちは増えなかったんですよ。日本も今のように努力義務ではなく、実行力のある制度が必要です。じゃないと、自分のパイを奪われたくないおじさんたちは本気出さないから。

藤井:今が男性に偏り過ぎているのに「クオータ制は女性優遇、逆差別」って言う人もいますよね。

アル:中高生にクオータ制の話をすると「性別じゃなく実力で選ぶべきでは?」と質問されるんだけど「今の大臣のおじさんたち、実力で選ばれてると思う?」と聞くと「ああ~」と理解してくれるので便利(笑)。

たとえば、以前『USB大臣』が話題になりましたよね。サイバーセキュリティー戦略を担う60代の男性大臣がコンピューターを使った経験がなく、「原子力発電所内でUSBメモリの使用は許可されているのか?」と会見で聞かれた際、質問の意味が理解できなかったっていう。USBがわからない人がどうやってサイバー攻撃から国を守るのか。私たちの生命や安全に直結する問題であり、政治に無関心でいても無関係でいられる人はいないんですよ。

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藤井:本当にそうですね。私も緊急避妊薬(アフターピル)をタイの薬局で買ってみたら約250円だったというTikTok動画を見て、衝撃を受けました。日本だと、ようやく薬局での試験販売が行われているところですよね(※2024年3月末まで試験販売の予定)。

アル:試験販売する薬局も全国でたったの145カ所とあまりにも少なすぎる。アクセスを悪くしておいて「ニーズはありませんでした」という結論にしたいんじゃないかって疑いますよ。

藤井:あとトイレットペーパーは当たり前のように無料で置かれてて、どうして生理用ナプキンは自分で用意しなきゃいけないんだろうって思います。生理痛やPMSを軽減させるために低用量ピルも必要なのに、なんで自分でお金を払わなきゃいけないんだろうって思うようになりました。

アル:生理だって尿や便と同じ生理現象だし、そもそも生理があること自体が大きなハンデなのに、お金も払わなきゃいけないっておかしいですよね。日本は低用量ピルの認可が欧米より約40年も遅れた一方、バイアグラはあっという間に認可された。女に生殖の自己決定権を渡したくない、家父長制を守るのが俺の使命だ! みたいなおじさんたちが政治の中心にいるからです。

生理の貧困が話題になったとき、学校のトイレに生理用ナプキンを置くことについて「保健室で申告制にするべきだ」って言い出すおじさんがいて「あなたはうんこするたび、紙くださいってもらいにいくんですか?」と聞きたかった。

藤井:ほんとそう。被災地でも平等にするために避難所でおじさんが1人2枚ずつ配るみたいな話もありましたが、全然足りないですよね。それに、おじさんにナプキンくださいなんて言いたくないですよ。


次回、第2回では、モデルとして活動してきた中で考えた「美しさ」のことや、摂食障害の過去について語ります。


構成:雪代すみれ

 

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藤井サチ

藤井サチ

1997年生まれ、東京都出身、在住。日本人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれた3人きょうだいの末っ子として育つ。2011年、14歳の時にスカウトされ、モデルに。2012年より「ミスセブンティーン」専属モデルに、2017年に「ViVi」専属モデルになる。2019年に上智大学を卒業し、現在はモデル、タレント、YouTuberとして活躍中。