第22回 武田砂鉄×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第22回は、ラジオやコラムなどで活躍しており、時事問題などを繊細に深く分析するフリーライターである武田砂鉄さんです。4回構成の2回目は、マチズモを削り取る考え方について話します。

 

泣いたり弱音を吐いたりできますか?

アル:小学生のとき、男子が高いところから飛び降りる根性試しをしていて、女子は「バカじゃないの」と冷めた目で見てたんですが、灘校の片田孫朝日先生が「うちもやってる生徒がいます」って言ってて「灘校生でもやるんだ」とびっくりしました(笑)。

大人になっても男同士の根性試しやガマン比べをやってますよね、サウナにどっちが長く入れるかとか。女同士はそんなことしないので、何やってんだかと思います。

武田:会社員時代、会社の飲み会にはほとんど行きませんでした。家でテレビ見たり、本を読んだりしているほうが面白いので。飲み会の翌日に、上司が「朝まで飲んでたのにもう出勤してるよ」と自慢げに語っていて、他のメンバーも「俺は6時までいた」「俺は4時でダメだった」と本当にどうでもいいチキンレースを繰り広げてました。夜はちゃんと寝て、朝起きた方がいいのに、って思ってました。

アル:リアル地獄のミサワですね。会社員時代、私も寝てない自慢する男性陣を見て「恥ずかしくないのかな」と思ってました。

うちの夫は強さアピールとか絶対しないし、そういうのが一番恥ずかしいって考えなんです。ピチピチのTシャツを着て大胸筋アピールする男とか、恥ずかしくて見てられないですよね(笑)。

武田:周りは内心「ぷぷぷ」と笑ってるのに、本人は笑われていることに気づかないのが不思議ですよね。

アル:うちの猫が死んでしまったとき、夫はパンパンに泣きはらした目で格闘家の集いに参加して「今日はいきなり泣いてしまうかもしれない」と宣言したそうなんです。そしたらみんな「泣いていいよ」「そりゃ泣くよね」と言ってくれたそうで、いいなと思いました。

男性も強がらずに泣けばいいし、弱音を吐けばもっと楽になりますよね。砂鉄さんは泣いたり弱音を吐いたりできますか?

武田:「悲しかった」「悔しかった」「あいつどうにかなんねえのか」みたいな弱音や愚痴は妻にしょっちゅう言ってますね。そういうことに対するハードルは極めて低いと思います。

アル:悲しい、悔しい、つらい、寂しい、怖い、恥ずかしい…といった「男らしくない」とされる感情に蓋をして抑え込むと「怒り」で表現しちゃうんですよ。怒りは「男らしい」感情だから。

「妻には口で勝てないからつい手が出た」とか、勝ち負けじゃねえだろって話ですけど、壁殴ったり人殴ったりベビーカー蹴ったりとか、男性が自分の感情を理解して言葉で表現できず、怒りとして爆発させてしまうのは、社会の治安維持に関わる問題だと思うんですよ。

武田:そうですね。ある調査で、あおり運転の加害者の96パーセントが男性だったと。すごい割合です。人身事故で電車が遅れたとき、駅員に詰め寄って「あと何分で走るんだ!?」って怒鳴ってるおじさんがいます。あと何分で走るのか、世界中の誰もわかりません。その人が怒鳴ったところで運転は再開しません。怒りの中に5パーセントぐらい冷静な自分がいたら「おっとっと、自分の怒りはどうやら無意味らしい」って気づくと思うんですけど。怒鳴って運転再開が早まったケースがあったら教えて欲しいです。

アル:怒りにのっとられて制御不能なんじゃないでしょうか。某有名男子校でジェンダーを教えている女友達が、アサーショントレーニング(相手を尊重しながら自分の意見も伝えられるようにすること)の授業をしたそうなんですよ。そしたら男の子たちが自分の気持ちを言語化してアサーティブな対話ができるようになり、クラスの雰囲気がすごく良くなったそうです。

武田:トレーニングしたら変わるってことは、生まれた瞬間からそうなんじゃなく、やはり身についたものってことですよね。

アル:全男性にその授業を受けてほしいですよ。男性が「男は負けるな、強くあれ」という呪いから解放されて、アサーションを身につければ、モラハラもDVも性暴力も戦争もなくなると思う。マチズモを削り取る、有害な男らしさを学び落とすためのトレーニングが必要ですよね。

鉄矢にならない誓い

 

武田:僕は武田砂鉄として、武田鉄矢的な説教をしないように気をつけているんです。

アル:一文字違うとなっちゃうから。鉄矢って教師役を演じてただけなのに、あたかも教師のように振る舞いますよね。

武田:鉄矢というか、金八というか、その一体化問題もありますが、人に対して、酔いしれたような説教をしない、自分の価値観や立場を利用して強要しない、自分に対して疑いの目線を持とうと。

ある程度、年を重ねたときに「AはBである」と疑いなく語り始めてしまう自分が出てくるかもしれないし、もしかしたらもう出てるかもしれない。そういうものを育てないようにしないと。

アル:ジェンダーの講演をすると、マンスプおじさんに遭遇するんですよ(マンスプレイニング/男性が上から目線で説教や説明をすること)

質疑応答の時間におじさんが挙手して、質問ではなく演説を始めることがよくあって。あまりに長いから「ちょっとその辺で」と止めると「じゃああと5分だけ」って言われて「まだ5分もしゃべるの!?」って(笑)。

彼らは参加者の女性たちに「皆さんが政治家になればいい、なぜ立候補しないんですか!」と橋下徹みたいな説教をしたりして、女性たちを委縮させ、発言の機会を奪うんです。これはあらゆる男女共同参画センターで起きていて、そのせいで質疑応答の時間を設けないところも多いそうです。

武田:90分ぐらい話した後にきた質問で、「えっ、うそ、何も届いてなかったのかな」と思ってしまうことが時折あります。「自分はわかった上で言っている」と思っていますよね。客観性のない人に「客観性を持て」と言うのは難しい。とにかく「自分に対して疑いがない」が一番深刻です。この確認作業、繰り返してます。

アル:「自分は差別なんかしてない!」というおじさんが一番厄介ですよね。マンスプおじさんはわざわざ女性の集まる場所に来て、ゴミみたいな演説や説教をするからマジ迷惑。解決策は穴掘って埋めるぐらいしか思いつかないです。

武田:会社員生活である程度偉くなった人が引退して地域コミュニティに参加したとき、「偉い俺」成分を出してウザがらみしてしまう流れがありますよね。いつまでも講釈を垂れる場所を探してしまうものなのでしょうか。

アル:友人の祖父は街頭でみかん箱の上に立って毎日しゃべってるそうですよ。そうやって他人を巻き込まずにやればいい、それでYouTubeに流せばいい、誰も見ないから。

武田:立候補者でもないのに、毎日ひとり街宣してるんですか。その生命力には興味がありますが、吐き出す場所を選んで欲しいです。

アル:関西のとある政治の集まりに行ったら、友近のコントに出てくる西尾一男みたいなおじさんが30人ぐらいいて、女性のスタッフや参加者に「俺の話を聞け」とケア労働させてました。西尾一男同士で和太鼓とかマイムマイムとかやってりゃいいのに。

武田:彼ら同士でバーベキューをするべきだと思いますよ。

アル:「シーフード言うたら海鮮やね!」って段取りしてほしいです(笑)。


次回、第3回では男女間のジェンダーギャップについて話し合います。


構成:雪代すみれ

 

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武田砂鉄

武田砂鉄

1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で時事問題やノンフィクションの本の編集勤務に携わり、2014年よりフリーランスに。2015年『紋切型社会』(朝日出版社刊)で「第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞、2016年「第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。他の著書に『マチズモを削り取れ』『わかりやすさの罪』『なんかいやな感じ』など多数。現在は、TBSラジオ『武田砂鉄のプレ金ナイト』、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』(火曜レギュラー)などのパーソナリティほか、「AERA」「女性自身」「日経MJ」など多数の雑誌でコラムを連載中。