第12回 津田大介×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第12回は政治メディアサイト「ポリタス」を運営しているジャーナリストであり、メディア・アクティビストの津田大介さんです。4回構成の最終回は、ジェンダー平等が社会にもたらす影響について語り合ってもらいました。

 

ジェンダー平等は男性の権利も取り戻す

アル:ジェンダーギャップ指数1位のアイスランドの研究者・塩田潤くんから聞いたんですけど、アイスランドでは男性同士のカップルがベビーカーを押してるのが当たり前の光景だそうです。

世界で初めて同性婚を実現した国・オランダでは、教室に同性カップルの子どもがいるのが当たり前だし、子どもの幸福度ランキング1位なんですよ。

一方、日本の子どもの精神的幸福度は先進国でワースト2位です。2022年、子どもの自殺が過去最多だったというニュースもありました。

同性婚が実現した国では同性愛者の自殺が減っただけじゃなく、異性愛者の自殺も減って、国民全体の自殺が減ったというデータがあります。

マイノリティが生きやすい社会は、全ての人の人権が尊重される社会であり、みんなが生きやすい社会なんですよね。

津田:日本のジェンダーギャップ指数が125位になっている原因は、圧倒的に政治と経済。政治分野は146ヵ国中138位、経済分野は146ヵ国中123位とどちらもワーストレベルですから。

アル:ほんとそう。アイスランドでは男女ともに6ヵ月育休を取れる法律があって、男性の9割以上が育休を取るので、逆に取らないと「なんで!?」って驚かれるそうです。

「男は仕事、女は家庭」というジェンダーロールの押し付けは、男性もつらいですよね。

男性は男女平等とかフェミニズムとか聞くと「権利を奪われる」と思いがちだけど、「奪われていた権利を取り戻す」と考えてほしいです。

子育てをして子どもの成長に立ち会うとか、心身の健康やケアを大事にするとか、家族や友人と過ごす時間とか、趣味や余暇を楽しむ時間とか、そういう権利を取り戻すんだって。

日本の男性の9割以上が半年育休を取れば、社会は変わると思うんですけど。

津田:ノルウェーは罰則つきの企業役員のクオータ制(※)を導入したから進んだ部分があるんですよね。だから日本でもクオータ制を導入し、男性育休を取得義務化すれば進むと思います。

ただ制度を作る国会議員が高齢男性ばかりだから、なかなか進まない。結局は、女性の国会議員を増やしていくしかないと思います。

※性別や人種など構造的な差別を受けているマイノリティに対し、一定数の席を割り当てること。

アル:アイスランドは平和な国ランキングでも10年以上ずっと1位なんですけど、国内の殺人とかも少ないと聞きました。初めて選挙で選ばれた女性大統領が、国内にあった米軍基地をなくす運動や平和運動をしていたそうです。

女性大統領が16年続いたアイスランドの子どもは「大統領って男でもなれるの?」と聞いたんだとか。日本の議会を見たら「日本にはおじさんしかいないの?」と聞くんじゃないですか。

津田:変えやすいのは、地道なところでは地方議会ですね。

2023年の統一地方選挙では、岸本聡子区長のいる杉並区の投票率が4.19ポイント上がって、女性の当選者が男性を上回りました。

加えてフランスのように立候補のクオータがなかったら政党助成金を没収される仕組みを導入するのがいいと思います。あとは日本は供託金が世界一高くて立候補の障壁になっているので、そこを先進国標準まで下げるなど方法はいくらでもあります。まあ既得権益にまみれた高齢男性中心の自民党政権だとそういう施策は一切進まないんですけど!

アル:政党助成金を減らされるなどのペナルティがないと、おじさんたちは本気で女性を増やそうとしませんよ。彼らにとっては、今の仕組みを変えない方が都合がいいんだから。実際、罰則のある国ほど女性議員の数は増えてます。

2000年には世界の半数以上の国で、女性議員の割合は1割未満だったそうです。20年前は他の国も日本と同レベルだったわけで、性差別をなくすために本気で取り組むかどうかなんですよ。

津田:そうですね。とはいえ男性の首長がみんなダメというわけではなく、元・兵庫県豊岡市長の中貝宗治さんは市役所のジェンダー平等を進めましたし、元・兵庫県明石市長の泉房穂さんも子育て支援に尽力しました。

アル:元・鳥取県知事の片山善博さんも30年前からジェンダー平等に取り組んできて、都道府県版ジェンダーギャップ指数では鳥取県が2年連続1位でした。

兵庫県小野市でも、民間出身の蓬萊務市長が旗振り役となり、女性議員が12年間でゼロから43.8%に増えたそうです。

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津田:首長が変われば地方行政が変わるので、アライ(※)の男性を上手く“使う”こともポイントだと思います。

※「味方」という意味

アル:味方になる男性を使って、女性の邪魔をしたいおじさんたちを駆逐できるといいですね。
ミソジニー(女性蔑視)の染みついたおじさんは女の話を聞かないから。男性の方が声が届きやすいという特権があるので、その下駄を使ってバチボコにしばいてほしいです!


構成:雪代すみれ

 

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津田大介

津田大介

1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長/ポリタスTVキャスターとして、メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会、表現の自由とネット上の人権侵害、地域課題解決と行政の文化事業、著作権とコンテンツビジネスなどを専門分野として執筆・取材活動を行っている。 主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)、『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)ほか。