人生悲喜交々、とにかく瀧波ユカリに相談だ(1)

『わたしたちは無痛恋愛がしたい』第4巻発売記念のお悩み相談コラム第1弾! たくさんのお悩みをお寄せいただき、誠にありがとうございました。本日から不定期更新になりますが、5つのお悩みに瀧波ユカリさんが全力回答いたします。

 

多様性の時代、子どもの将来が心配です

 

大学受験を控えた高3の娘がいます。本人が大学進学を希望しているので、頑張ってほしいと思っているのですが、全く勉強をしません。この子が受かる大学はないんじゃないかと本当に思います。それと同時に世間の厳しさをもうすこし叩き込んだ方がよかったなァという後悔もあります。もちろん大卒で大企業に就職だけが幸せの道ではないし、昨今は多様性の時代です。でも、貪欲に野心を持たないと将来困ったことになると心配してしまいます。頭では令和的な価値観を良いものと思えるのですが、こどもに対してはそうは思えません。このダブルスタンダードな自分をどうしたらよいでしょうか。

(yoshi・40代)

 

yosiさん、ご相談ありがとうございます!高3の娘さんということなので、もしかしたらもう受験は終わっているかもしれませんね。なので、いずれにしてもこの先を考えるヒントをお伝えできればと思います。

yosiさんは、今は「多様性の時代」で、大卒で大企業に就職する以外の幸せもあると思うけど、子供に対してはそう思えない自分をどうしたらいいか…とお考えなのですね。悩みとしてはわかるのですが、ちょっと複雑に考えすぎているような気もします。私から見ると問題はもっとシンプルです。「娘に向上心がない」、ここが今回のお悩みのポイントではないでしょうか?(向上心とは野心よりももう少し理性的なもので、「自分の人生をより良くしたいと思い、行動する力」と言い換えてもいいかもしれません)

実は私も、思い返せば向上心のない若者でした。もっと難易度の高い大学を目指すこともできたのにそうしなかったし、就職活動もしないまま卒業してしまいました。向上心がなかった理由はふたつあります。ひとつは、先を想像する材料を持ち合わせていなかったこと。選ぶ大学や就職先によって、どんな環境に身を置くことができて、どんな人と出会えて、どんな選択肢が増えるのか…そんなふうに想像を膨らませて比較検討するだけの知識がなく、その必要性にも気がついていませんでした。もうひとつは、将来の目標が定まっていなかったこと。目標がないので、そもそも努力する意味を感じられなかったんです。

もし過去の自分に声をかけるなら、「目標がなくてもいいから、選択肢を広げるためにできる限りの努力をしなさい」と言います。そして、選択肢をひとつでも多く持っておくことのメリットについても説明したいです。「大学で学年トップを目指すくらいがんばると、就職の時に有利になるかもよ。就職も、ひとつでも内定を取ってからするかしないか考えればいいよ。ないものは選べないけど、あるものからは確実に選べるんだから」というように。

とはいえ、若者が大人の話を素直に聞かないのは世の常です…!そこでおすすめなのが、ノートを作って渡すこと。こうの史代さんの『さんさん録』(双葉社刊)という漫画をご存知ですか?初老の男性が、亡き妻の残したノートを見ながら、家事や家族のケアに取り組む話です。そのノートには「こんな時はこうする」という生活のヒントがめいっぱい書き込まれています。男性はたびたびノートを開き、亡き妻をしのびながら、生活する力をひとつずつ身につけていきます。

そんな『さんさん録』にならって、yosiさんも娘さんに「自立のためのノート」を作って手渡してみてはいかがでしょうか。「やる気が出ない時に試すといいこと」「孤独な時はどうするか」「お金に困った時の対処法」「暇な時にやっておくといいこと」「読んだほうがいい本」「税金や保険など知っておくべき社会の仕組み」「人の下で働く時に役に立つこと」「自分の味方を増やすコツ」「危険な状況を避けるための予備知識」「恋愛の時に自分を守る方法」「ハラスメントにあったら」など、なんでも詰め込んでみるのです。伝えるべきことが思いつかないようなら、図書館に行って若者向けの人生指南書を読むなどして、まずはyosiさんご自身の知見を広げましょう。

向上心は、おしりを叩いても、小言や説教をしても、身につくものではありません。本人の内側から湧き上がってくるのを待つしかありません。でもそれまでに、知っておいてほしいたくさんの知識を伝えることはできます。知識は子供と大人の間の不安定な時期を生き延びるための糧になり、先が見えない時の杖になり、将来を想像するための材料にもなります。将来を想像する力がつくと目標が見えてきて、向上心に火がつきやすくなります。万が一この先も向上心がないままだったとしても、知識があればあるだけなんとか世間を渡っていけます。会話で受け取ってもらうことが難しいなら、書き留めて渡すことで親としての責任は果たせます。

きっと、とっても面倒くさくて大変な作業になると思います。でも「やるだけやった!」と思ってさっぱりできる良い機会でもあります。まずは『さんさん録』を読んでみてください。応援しています!

 

次回の更新をお楽しみに!

瀧波ユカリ

瀧波ユカリ

漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。