人生悲喜交々、とにかく瀧波ユカリに相談だ(2)

『わたしたちは無痛恋愛がしたい』第4巻発売記念のお悩み相談コラム第2弾! 

 

元夫の不倫は私のせいでしょうか

 

10月に離婚しました、33歳です。結婚から1年経たずして妊娠しましたが、流産。丁度コロナが流行していた時期で、もう一度子どもの事を考え始めたのは流産から一年半後でした。そこから約半年後の昨年には、家の購入を検討しましたが元夫のローンが通らず見送りに。その間も不妊治療までいかないものの、妊活をしてきました。

話が前後してしまいますが、私は流産後精神的に参っていました。けれど心療内科に行かなくても大丈夫と慢心していましたし、自身の精神的不調が体調面においても現れている事に一切気付いていませんでした。そんな中、昨年の夏前頃から元夫の変化に気付き始め、年末頃不倫が発覚。不倫の事については触れず、話し合いの末、離婚にならない為に一旦離れて、日を置いてまた話し合おうと結論になりましたが、結果不倫を加速させ元夫からは「うつの妻を助けてあげられないから離婚、一緒にいるとダメになりそう」と、何度話しても離婚しか言わず。

どうにもならないので、不貞相手と一緒にいる所へ行き事実確認を取りました。私は元夫の不貞があっても、互いの気持ちを汲みあって一緒に生きていくつもりでした。でも夫は離婚一択。私からの必要事項による連絡もほぼ無視、月に一度あるかないか程度の話し合いにおいても威圧的な態度や危険運転をされ、どんなに自分が相手の気持ちに寄り添いたいと思っても、それが相手には負担になったり分かり合えない事があるんだと現実を知り、離婚に至りました。

私は家事が好きです、なので家事全てをやる事が嫌だと思った事がありませんでした。元夫は家では何もしない人で、夕飯が鍋でもパンが食べたいと言われたら一からパンを作る。そんな生活でした。私は元夫に男性的であって欲しいと願ったつもりは無かったです。フェミニズムやジェンダー論の本も読んでいました。でも私は元夫に「男たるもの」を求めていたのでしょうか? 「尽くしすぎ」だったのでしょうか? 元夫から毎月食費一万五千円をもらって、後は光熱費家賃など各自分担でした。(元夫の収入は倍以上)元夫は毎月同じ位の金額を出していると言っていましたが、実際は夫の方が低い金額でした。私は自立出来ていなかったのでしょうか?
とりとめもない相談と言えないかもしれません、ごめんなさい。

(ぽっぽ・30代)

 

ぽっぽさん、いくつもの大きな出来事に直面してきたこの数年間、ものすごくがんばってこられたんですね。この相談文を書く間にも、さまざまな思いが巡って痛みを思い出されたのではと思います。回答まで大変お待たせしてしまいましたが、送っていただいてありがとうございます。

さて、ぽっぽさんは、ご自身が元夫に「男たるもの」を求めていたのか、「尽くしすぎ」だったのか…と書かれています。これを読んで、もしかしてぽっぽさんは責任を感じているのかなと私は思いました。つまり、元夫さんが不倫をして、分かり合うことを拒絶して、離婚を求めるような人になってしまったことを、ぽっぽさんはご自身の責任だと捉えているのかなと。家事をすべてこなしながら、経済的には半々どころか自分のほうが多く出す。前者は昭和的で、後者は令和的な「良妻」。それは夫にとっては都合がいいばかりで、だから夫は図に乗って自分勝手な行動に走ってしまった…そんなストーリーが、ぽっぽさんの中にあるのではないでしょうか。

だとしたら、それはちがうんじゃないかな、というのが私の印象です。もちろん、私には事実はわかりません。それどころか、当事者であるぽっぽさんのストーリーも、元夫さんのストーリーも、きっと一緒ではないはずです。その前提の上で、私が感じた「ちがう」をもう少しくわしく言うと、「本当に採用するべきストーリーは、それではない」です。

どうして「それではない」と思うのかというと、このストーリーの中にはぽっぽさんの「痛み」と「怒り」がないからです。ぽっぽさんに起きたことは、痛みの連続だったはずです。そしてその痛みに寄り添わなかっただけではなく、さらに新たな痛みをもたらしたのは、元夫さんであるはずです。ならば、自分の責任を考えるより先に「怒り」が出てくるはずなのです。だけど、痛みも怒りも見当たらない。ぽっぽさんに起きたことと痛みは切り離せない以上、痛みと怒りの抜け落ちたストーリーは採用すべきではないのです。

では、どうしてぽっぽさんの痛みと怒りがストーリーから抜け落ちてしまったのだろうか?それについて考えていたら、去年DV夫から逃げて今も別居中の友人が、こんなことを言っていたのを思い出しました。

「別居を始めたばかりの頃は、夫への怒りをあまり感じていなかった。自分が自分を少し離れたところから見ているような感覚で、感情自体が希薄だった。でも最近になってやっと、強い怒りを感じるようになった。離れてみて、自分が何をされてきたのかをだんだん理解できるようになったんだと思う。」

これはつまり彼女が、自分が何をされてきたのかがわかったことで、「自分は悪くなかった。夫が悪かった。私は傷つけられた。許せない」というストーリーをつかむことができた、ということなのだと思います。

彼女がそうだったように、もしかしたらぽっぽさんも、まだ感情がついてきていない状態なのではないでしょうか。今はまだ自分の受けてきた「痛み」を直視する準備ができていないから、まずは「痛み」を除外したストーリーを採用して、様子を見ているのかもしれません。心が少しずつ起きたことへの理解を進めていって、感情がそこについてくるようになるには、時間がかかるものです。

だから今は、ぽっぽさんはあせらなくていいし、今あるストーリーを捨てることまではしなくていいと思います。ただふたつだけ、覚えておいてほしいことがあります。ひとつめは、元夫さんの性格や行動は、ぽっぽさんが引き起こしたものではないということ。そう思ってしまう時があったら、「ああ、今はまだ感情が整理できていないから、自分に原因があると思うことでいったん落ち着こうとしているんだな。心がそういうふうに動いてしまうのは、今はしかたがないな」と捉え直してみてください。

ふたつめは、ぽっぽさんはいつか怒りを取り戻すだろうということです。怒りとは、もてあますほどの強い感情です。それが湧き上がってきた時、びっくりして、怖くなって、ないことにしてしまいたくなると思います。でも、その怒りは大切なものなので、どうかちゃんと向き合って、怒りきってください。ああひどい、腹が立つ、憎い、許せない、と言葉にして、叫んで、書きなぐって、だれかに聞いてもらって、涙を流して、怒りを感じきってください。
どうして怒りを感じきる必要があるのかというと、ぽっぽさんは、ぽっぽさんにとって大切な存在だからです。ぽっぽさんが傷と痛みを受けたことに対して、ぽっぽさん自身が怒ってください。大切な私に、なんてことをしてくれたんだと。私は私を大切にしない奴のことを二度と私に近づけない、私は私を絶対に守るぞと。
私は、私のために怒る。私は、私自身を守る。きっとそれこそが、ぽっぽさんが最後にたどりつくべきストーリーなのだと思います。そしてそれを手に入れた時に、痛みは過去のものになるでしょう。

ぽっぽさん、応援しています!

 

次回の更新をお楽しみに!

瀧波ユカリ

瀧波ユカリ

漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。