人生悲喜交々、とにかく瀧波ユカリに相談だ(4)

『わたしたちは無痛恋愛がしたい』第4巻発売記念のお悩み相談コラム第4弾! 

 

不倫相手の家族への嫉妬心に苛まれています

 

私は56歳独身です。

10年位前に離婚して、シングルで息子を育てていましたが息子は、5年前に大学3年生の時に自死しました。

非常に苦しい時に、学生時代の同級生の友人が支えてくれて恋愛関係になりました。彼は既婚者で、単身赴任でたまたま近くに住んでいました。単身赴任が終わり、彼は家族と暮らすようになり、それでもLINEや電話で繋がっていました。が、数ヵ月して突然連絡が取れなくなりました。所詮不倫ですし、「もう家族と過ごす事を選んだんだ。楽しかったから、彼が幸せならそれでいい」と思うようにしました。

しかし後から彼が突然死していた事がわかりました。非常に落ち込み、気持ちを立て直すのが大変でした。私と連絡を取らなくなったのではなく、死んでいたのです。

ほどなくして、彼のご家族が悠々自適に過ごしている事を知り、生前は全く感じなかった嫉妬心が湧いてきました。私の息子は、私が経済的に苦しかったので、仕方なく地元の国立大に行かせてしまった経緯があります。

もちろん、彼の保険金や貯蓄、遺族年金はご家族のものであり、私には何の関係もありません。が、彼の娘は私立大を出てから彼の遺産で専門学校に行ったり、奥さんも働く必要もない生活をしている事がモヤモヤさせるのです。例えて言うなら、雨の中傘をさしながらずぶ濡れで歩いているところに、彼のご家族の高級車に盛大に水をかけられた気持ちになるのです。

大切なご家族を亡くされたから、私の見えないところで大変な気持ちでいる事は理解しています。でも「知っているかどうかは分からないけど、不倫されて苦しんでいたとしても、ありあまる物は手に入れたじゃないか」とも思います。自分は、ないないづくしで生きているのにと思うと妬ましい気持ちが消えません。どんな風に気持ちを切り替えたらよいか、教えて下さると嬉しいです。

(アガサ・50代)

 

アガサさん、ご相談をお送りいただいてありがとうございます。

息子さんとのお別れ、そして恋愛関係になったご友人とのお別れ…きっと、大変な悲しみや痛みと共に生きてこられた数年間だったのではないでしょうか。そして、今こうして過去を振り返り、自分の気持ちを整理して綴ることができるようになるまで、数え切れないほどの自問自答を繰り返してこられたのだろうと思います。

だからまずアガサさんにお伝えしたいのは、大変よくがんばってこられました、本当におつかれさまでした、ということです。同じ経験のない私が言えることではないかもしれませんが……。

さて、今アガサさんは、ご友人のご家族を妬ましく思う気持ちが消えないことで、苦しんでおられる。だから、どうにかして気持ちを切り替えたいと、考えていらっしゃるのですね。

妬みって、一般的にはよくないもの、持つべきではないものとされています。でも私は、ほんとにそうなのかな?そんなことないんじゃないかな?と思っています。妬みに突き動かされてだれかを傷つけたりしてしまうのはよくないけれど、心の中で妬みを抱いているだけだったら、全然いいんじゃないかなって。

もちろん、妬ましく思うことによる苦しさというものはありますから、妬みという感情を持たずにいられれば一番いいとは思います。でも、いくら消そうとしても湧いてくる感情は、心にとって必要だからそれほどの強さで湧いてくる、と考えることもできます。

アガサさん、ちょっとこんなふうに考えてみませんか。妬みは今のアガサさんにとって、生きていくために必要な感情なのだと。ああ羨ましい、妬ましいと思うことによって、心がなんとかバランスを保っているのだと。

妬みは人間の持つさまざまな感情の中でも、とくに強い力を持つ感情ですよね。きっとだれもが、自分まるごと妬みのエネルギーに支配されているように感じた経験があるはずです。私も20代で父親を、30代で母親を亡くしたあとは、両親ともに健在で親子仲もいい友人たちに強い嫉妬心を感じることがありました。胸の中に火がついて身体の内側が焼けていくような、やり場のない痛みにとらわれて苦しかったです。

妬んでいる間って、思考がぐるぐる回っていて心が前にも後ろにも進めない。自分ではどうにもならない。でも、もしかしたら私にはそういった「どうにもならない時間」が必要だったのかもしれません。妬みのエネルギーに思考を持っていかれて一歩も進めずにいても、時間だけは流れてくれます。そうしているうちに、自分が大きなものを失ってしまったことを、心は少しずつ受け入れていくのかもしれません。

アガサさんも、大切な方々を失って、心は未だに大きな痛みを抱えていると思います。そしてその痛みが癒えたと思えるようになるまでには、まだまだ長い時間がかかるでしょう。だから今は、妬みを感じる自分自身の心を許してあげてほしいです。

その上で、これからは妬みの感情が襲ってきたら、「今自分が妬みを感じている」ことを認知してみてください。親しみをこめて「ねたみさん」と名付けて擬人化してみるといいです。「ああ、今日もねたみさんがやってきた。どうぞどうぞ、気が済むまでいるといいよ」というように。

そして、ねたみさんとの上手な付き合い方を探してみてください。「ねたみさんが来るとやっぱり疲れちゃうな。早く寝ようっと」「ねたみさんと向き合いすぎるとしんどいから、ウォーキングして気分転換してみよう」「今日はねたみさんとうまく付き合えたから、ご褒美にケーキを食べちゃおう」みたいに。

(こうして、心に湧いてくる感情に名前をつけるなどして客観視することは問題に対処するスキルのひとつで、心理学では「外在化」と言います。カウンセラーの伊藤絵美さんの本『セルフケアの道具箱』(晶文社)にわかりやすくまとまっているので、ぜひ読んでみてください!)

妬みを「感じてもいいもの」「向こうからやってきてしまうもの」と認識した上で、振り回されたり囚われすぎたりしないように工夫をしてみる。そのようにしてしばらくの間、様子を見てみませんか。ここまで進んでこられたアガサさんならきっと、取り組んでいけると私は思います。応援しています!

 

次回の更新をお楽しみに!

瀧波ユカリ

瀧波ユカリ

漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。