第16回は1997年生まれ、カリフォルニア州出身で現在もお住まいのZ世代の新星ライターである竹田ダニエルさんです。4回構成の最終回は、アメリカで育った竹田さんに「セルフケア・セルフラブ」についてお聞きします。
真のセルフケア・セルフラブとは?
竹田:日本ではセルフケアやセルフラブについて「自分の機嫌をとるために高いチョコレートを買う」「高級エステに通う」など消費文化と繋げられがちですが、それは誤解です。
元々は黒人が人権を獲得する運動のときに、闘ってばかりだと疲れるから、コミュニティの中で支えあうなど、外向きに力を出すだけではなく、自分にも目を向けようという話からはじまりました。
たとえば自分を大切にしてくれない人と付き合ってることで悩んでいるなら、それは「自分は大切に扱われなくていい」とどこかで思っているから。だから雑な扱いをされても我慢してしまう。つまり「自分を正当に扱ってない=セルフラブしてない」ってことなんですよ。
ただ、日本においてセルフケア・セルフラブが理解されるのは難しいと思う部分もあって。
謙遜や自己卑下が文化として根付いてしまってる以上「自分はダメなんです」って言ってた方が人気が出る構造がありますよね。
アル:日本を出て海外で暮らす女性たちから「ついクセで自虐をしたらドン引きされた。日本では自信のある女性は生意気だと叩かれるから、日本社会で女性に期待される振る舞いをしていたことに気づいた」と聞きます。
日本の女性は世界一優しいとか怒らないとか言われますけど、それってナメられてるってことですからね。
韓国人の女の子から聞いたんですが、韓国人男性の間では「日本の女の子は優しいから、韓国の男を好きになってくれる」という迷信があるそうです。好きなのはBTSであって、おまえじゃないぞと(笑)。
あと彼女が日本語を勉強してると言うと「やめて~きもちいい~」ってからかわれるそうです。AVの影響で「やめて」が拒絶ではなくエロい言葉だと誤解されてるんですよね。
海外で日本人女性が「日本の女の子は半分くらいがポルノに出てるんでしょ?」と聞かれたり、「日本の女性は義父とセックスしなきゃいけないの?」と聞かれたり、AV由来の盛大な勘違いが日本人女性を危険な目に晒してる現実はありますね。
竹田:それに対して自覚的であるかどうかがポイントだと思います。
性差別や性搾取に気づかない方が楽だし、自覚した方が生きづらさを感じるでしょう。でも現実に被害が起きているので、ちゃんと向き合わなきゃいけないフェーズに来ていると思います。
アル:本当は変わるべきは社会なんですけどね。でも当事者である女性たちが声を上げないと変わらない、という現実がありますよね。
私も20代の頃は、見ない方が楽だと思ってました。いちいち痛みを感じてたら生きていけないから、感覚を麻痺させてました。でもやっぱり傷ついてたんですよ。当時はその痛みを誤魔化すために、酒やセックスに逃げて依存してました。
私はフェミニズムに出会ったことで、奪われた自尊心を取り戻せたんです。だから47歳の今の方が元気はつらつに生きてます、坐骨神経痛はつらいけど(笑)。
竹田:大丈夫ですか?(笑)。
アル:坐骨神経痛は、尻から岩を産む感じの痛みです。坐骨神経痛が悪化しないために毎日ストレッチを続けてます。他人の評価とか関係なく自分のためだけに体をケアする、これぞ真のセルフラブかもしれません。
竹田:(笑)。私に取材依頼をくれる方は女性が多いのですが「言葉を学ぶことによって怒りが増えた」とよく言われます。
自分に言葉がないと、自分が感じている理不尽さを生み出す社会構造や仕組みも言語化できない。すると自分が感じている怒りも「自分のせいだ」と呑み込んでしまう。
でもフェミニズムを知ることで、社会が悪いのであって自己責任ではないことがわかり、怒りを言語化できるようになったと。
アル:私も読者の方から「怒っていいんだって気づいた」とよく言われます。
それでセクハラしてくる上司に「やめてください」と怒ったら、上司がびっくりして謝ってきて、それ以来ピタッとセクハラされなくなったとか。「私がいま元気に働けてるのはアルさんのおかげです」とかお手紙をもらうと、フェミニズムの力を感じて涙が出ます。
理不尽な事をされて怒れるのは、まっとうな自尊心がある証拠ですよね。それは「自分を正当に扱うこと=セルフラブ」にもつながると思います。
構成:雪代すみれ
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作者・編集部で拝見させていただきます。
1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。そのリアルな発言と視点が注目され、あらゆるメディアに抜擢されているZ世代の新星ライター。「カルチャー ×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著作に、『世界と私のA to Z』、『#Z世代的価値観』など(ともに講談社)。