第4回 瀧波ユカリ×アルテイシア対談

ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんの新連載!
毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。第4回も&Sofaでもおなじみ瀧波ユカリさんです! 「一生大黒柱として働く」ことになった瀧波さんが、男性は中高生ぐらいからその意識を持っているから別の大変さがある、と気づいたことなどを語ります。

 

大黒柱はつらいよ

アル:「妻の成功を喜べない夫」の話もよく聞くのですが、瀧波さんの夫さんはいかがですか?

瀧波:それは全然ないですね。

夫は会社員でメディア系の仕事をしていたのですが、子どもが生まれてから私の仕事一本だけにして、当面の間は自分がサポートやマネジメントをしていくって言い出した。「あなたは本当に好きなことを仕事にしていて、しかも世の中から求められているのだから、育児のために仕事をセーブするのはもったいない。自分が支えるから」と。ありがたく感じつつも、漫画家は不安定な職業なので、収入を一本に絞るなんて正気の沙汰じゃないって思ったんですけど。

アル:大黒柱になるって大変なプレッシャーがありますよね。

瀧波:最初の1年は寝ながらうなされていたみたいです。不安定な仕事一本で、家族の生活を守らなきゃいけないことへの危機感がありました。

そもそも女性の漫画家でずっと続けてる人って少ないので、私も続けられるかわからないなって思ってた。だから「もし描けなくなったら、夫が働いて私は家事育児をする選択肢もある」と無意識に思ってたことに、自分でもびっくりしました。

夫がサポートに入ってからは、私の苦手な経理やデータ整理を全部してくれてますし、テレビの仕事のときも色々と教えてくれて、支えてもらってます。

アル:敏腕マネージャーですね! 今は共稼ぎが多数派ですが、昔の男性たちは当然のように大黒柱をやってきたんですよね。

瀧波:その気づきは大きかったですね。男性は中高生ぐらいから「自分は一生働く」って意識を持ってる人が大多数なんだろうなって。

その道が整えられている一方で、その道しか想像できないとなると「女は羨ましい」と思う気持ちもわかりますね。

アル:種類の違う地獄ですよね。女性は社会で活躍するための翼を折られますが、男性が「男だろ?」ってケツを蹴られるのもしんどさがあるなって。とはいえ、男女の賃金格差とか働く環境がまだ平等ではないから、望まなくても男性が大黒柱にならざるを得ない仕組みになってるのですが。

昨年の子どもの自殺が過去最多で、中でも男子高校生が4割で圧倒的に多いというニュースを見ました。

経済や雇用は男性優位な社会だけど、どの世代も男性の方が自殺率が高く、「他人に悩みを話すのに抵抗がある」という男性が多い。

うちの父も有害な男らしさを煮込んだような人物で、商売が傾いて自殺してしまいました。

「男は稼いでナンボ」「男は弱音を吐くな」というジェンダーの呪いが男性自身を苦しめているし、命にかかわる問題ですよね。

私はフェミニズムは男性も救うと思うし、次世代の男の子たちのためにもフェミニズムを広げていきたいです。

瀧波:女性差別について話すときに「男の苦しみはどうでもいいのか」って言ってくる男性がいますが、それについて女性も必要なときには語ってるんですよね。

そもそも自分たちの問題なんだから、自分たちで声を上げろよって思います。女性たちが若い頃のつらさに気づいて声をあげているのと同じように、男性たちが自分の過去の苦しみを振り返って、若い男性が楽になるために声をあげることはできると思うんです。

アル:瀧波さんは「フェミはこの件についてだんまり」とフェミを叩く男性たちを「妖怪フェミダンマリ」と呼んでますよね(笑)。

瀧波:妖怪フェミダンマリ、Twitterの匿名ユーザーさんが使っていて「うまい!」と思い、私も使わせてもらってます! アンチフェミたちは自分が気に入らない人や団体を攻撃するために、団結してるじゃないですか。なら自分たちのケアのためにも団結できるだろうって思うんですけど。

なぜしないかというと、社会が男性中心で整っているから、変えなくてもそれなりに生きていけるからですよね。

男性が自分の生きづらさを訴えることは、歴史的に見たらまだ赤ちゃんの段階だと思うんです。時間はかかるでしょうが、そこで女性たちが手取り足取りサポートしたら、赤ちゃんは自力で歩かなくなるので、応援はするけど代わりにやってあげないスタンスです(笑)。

アル:がんばれ赤ちゃんたち(笑)!

男性同士で生きづらさを語り合うグループなども、少しずつ増えてますよね。一部の男性が生きづらさゆえに女性に加害するのをやめれば、女性も安全に暮らせますから。

男性が変わらないと性差別や性暴力はなくならないし、ジェンダー平等も進まないし、社会は変わらない。だから男性も巻き込んでいくのが大事だと思うんですよ。

瀧波:その点、フェミニズムを広めたい人は工夫することが必要だと思ってます。
例えば男性に痴漢被害の深刻さを説明するときに「自分の娘が同じ被害にあったらどう思うか想像してください」って言い方をすると、家父長制的な考え方だって批判されますよね。

それはわかるんですけど、最初は自分の身近な女性で想像するのでもいいと思うんです。痴漢被害について何も考えてなかった人が「自分の娘が同じ被害に遭ってたら」って気づけるなら、大きな一歩じゃないですか。

アル:そうですね。私も自分の猫が加害されたら、犯人を地獄の果てまで追い詰めます。そんなふうに想像すれば、自分事として考えられますよね。

私はフェミニズムを広めたいガチ勢なので、シンプルにわかりやすく説明するようにしてます。

フェミニストをシンプルに言うと「性差別に反対する人」ですよね。だからフェミニストの対義語はセクシスト(性差別主義者)。
「自分も性差別には反対だからフェミニスト」と、みんなが普通に言える社会になるといいですよね。


構成:雪代すみれ

 

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瀧波ユカリ

瀧波ユカリ

漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。