第20回はViVi専属モデルとして活躍しながら、タレントやYouTuberとしても活動している藤井サチさんです。4回構成の最終回は、恋愛やストレスを解放するセルフケアについて話し合います。
恋愛するならジェンダーについて学ぶ意欲がある人
アルテイシア(以下、アル):恋愛については『ViVi』のフェミニズム特集で「ジェンダー平等じゃない人はお断り!」と話してましたね。
藤井サチ(以下、藤井):日本は人権やジェンダー教育を受けてない人が大多数なので、最初からわかってなくても、私が話したときにわかってくれるか、自分のバイアスに気づいて素直に学ぶ意欲を示してくれるかを大事にしてます。ジェンダーやルッキズムの話をしたときに「だるっ」って言ってきたら、絶対にナシですね!
アル:頼もしいわ~! 日本列島ではジェンダーイコール男子は希少種なので、伸びしろがあるか見極めるのがポイントですね。ポテンシャル採用みたいな感じで。
それと、女性側が我慢しないことが大事だと思います。モラハラ夫と結婚した妻たちは、我慢強いがんばりやさんが多いんですよ。優秀で努力家の彼女らは超えるべきじゃないハードルを超えようとして、我慢すべきじゃないところで我慢してしまう。
藤井:実は私は我慢ができるタイプでして……。我慢からは何も生まれないと頭ではわかってるけど、「嫌われたくない」とか色々考えて我慢してしまう。だから「いま我慢したな」って思ったときに、それについて正直に話し合える人だったらいいなと思うんですよね。
アル:そうやって話し合ううちに「我慢しなくていいんだ」と思えるようになるといいですね。無理しなくていい、自分を削らなくてもいい相手を選ぶのが幸せになるカギだと思います。
藤井:アルテイシアさんのご家庭もそんな感じですか?
アル:18年の結婚生活で、私は夫から「あれをしろ」「これをするな」と言われたことが一度もないんですよ。先日ふと私が「頭に皿を載せてカッパとして暮らそうかな」って言ったら、夫は「いいんじゃないか」って賛成してました。
藤井:なぜカッパとして暮らそうと思ったんですか(笑)。
アル:カッパって生き方が自由な気がして。夫にそう言うと「いやカッパの世界はわりと厳しいぞ」と言われました。この話を上野千鶴子さんにしたら「そういう人だから18年も続いてるのね」と言われて、夫に伝えたら「カッパに詳しい人ってこと?」って言ってました(笑)。
藤井:めっちゃ楽しそう(笑)。そういうパートナーを見つけられるといいですよね。
アル:そういえば、読者の女性から「マッチングアプリにアルテイシアのコミュニティがあって、フェミ男子とマッチしました!」と嬉しい報告をもらいました。最近はプロフィール欄にフェミニストかどうか記載できるアプリもあるって聞きましたよ。
藤井:それだと話が早いし、後からジェンダー観が合わないと気づくよりもいいですよね! 付き合ってみないとわからないのはダメージが大きいですから。
アル:「ジェンダーイコール検定2級」みたいな試験があるといいのに(笑)。
セルフケアや居場所をいくつか持っておく
アル:藤井さんはフェミニズムについて発信する中で、面倒な人扱いされたことはありますか?
藤井:フェミニズムの本をInstagramに投稿したら「ついに藤井サチもフェミニストか」みたいなDMが届いたことはあります。価値観をアップデートさせてるだけなのに、なんで「フェミニスト=怖い」ってイメージになるんだろう? と疑問に思ってました。
アル:メディアに作られたイメージもありますよね。田嶋陽子さんもテレビで「セクハラするな」とか当たり前のことを言ってたのに「怒る女」「怖い女」みたいに印象操作されて、壮絶なバッシングを受けました。ジェンダーや政治について発信する中で、ネットのバッシングは怖くないですか?
藤井:他の友達と比べたら、私は少ない方です。友人の中には「社会を変えるためには議論が必要だから、嫌なコメントが来てもいい、話題になるだけマシ」って考えの子もいます。ただやっぱり傷つくのは傷つくので、私は見ないようにしてます。
アル:見ないこともセルフケアだと思います。でも気になって見ちゃうのもわかるんですよ。私はもうクソリプ慣れしちゃって「コバエが飛んでいるわね」って感じだけど、若い頃なら傷ついて死んでいたかもしれません。
藤井:そういうとき、自分のことを本当にわかってくれて、何があっても味方してくれる人が2〜3人いれば違うと思うんです。
アル:たしかに、私も安心して愚痴れるフェミ友の存在に救われてます。藤井さんは「我慢してしまう」と言ってましたが、それは恋愛以外でもそうなんですか?
藤井:そうですね、小さいときからの癖みたいです。今は臨床心理士さんのセラピーに通っていて、無意識に我慢してしまう自分に気づくようにしてます。日本だとセラピーの話をすると偏見的に見られてしまいがちですが、アメリカでは日常のセルフケアとして利用する人も多いです。
日本でもセラピーに通うことが文化として根付くといいですよね。金額的なハードルもあるので、もっと気軽に通えるようになるといいなと思います。
アル:これだけストレス社会で自殺者も多いんだから、国がもっと補助するべきですよ。防衛費や万博にお金使ってる場合じゃないですよ。ちなみにセラピー以外のストレスコーピングってありますか?
藤井:中学生の頃からジャーナリング(※)を続けてます。
信頼できる人に話しながら頭を整理するのも好きですが、その前に出来事を客観的に見るために書き出すことが多いです。書いておくことで、セラピーのときに「先週こういうことがあったんですけど、こうやって自分の中で解釈して改善できました」って話もできますから。
それ以外にも、セルフケアの方法や自分がエスケープできる居場所をいくつか持つようにしてます。
※頭に浮かんだことを自由に紙に書く手法。自己理解の深化が期待でき、「書く瞑想」とも呼ばれる。
アル:コーピングのレパートリーは多ければ多い方がいいって言いますよね。ストレスの根本原因を解決するのはなかなか難しいので、対処法を持っておくことが大事。いろいろ試すうちに、自分に合った方法が見つかると思います。
藤井:最近、自分を自分の力で安心させることができるのって本当の幸せだと思うんです。もちろん恋愛してパートナーができることも楽しいけど、パートナーがいる状態が120だとしたら、パートナーがいなくても自分で自分を幸せにできて100でいられるのが私の理想です。
アル:まさにセルフケア、セルフラブですよね。こんなしょっぱい世の中で自分ぐらい自分を大切にして愛してあげなきゃ生きていけないですよ。
「最近の若者は傷つきやすくて繊細すぎる」とか言われるけど、繊細だから自分も他人も大切にできるんだと思います。自分の気持ちを大切にできないと他人の気持ちも大切にできないし、自分の感情を言語化できないと、他人と深い繋がりを築くのも難しくなる。だから「繊細で何が悪い!」と胸を張ってほしいです。あと年をとると細かいことを覚えていられなくなるので楽ですよ。
藤井:年齢でいうと、私は年を重ねるにつれて、どんどん人生が楽しくなってます。中高生の頃ってどうしても周りと比べて「自分なんてダメだ」って思ってたのが、大人になるにつれて、その呪縛から解かれて「自分がOKと思ってるならいいんじゃん」って自信が出てきて。今27歳ですが、30歳も40歳も50歳……とずっと楽しみです!
構成:雪代すみれ
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作者・編集部で拝見させていただきます。
1997年生まれ、東京都出身、在住。日本人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれた3人きょうだいの末っ子として育つ。2011年、14歳の時にスカウトされ、モデルに。2012年より「ミスセブンティーン」専属モデルに、2017年に「ViVi」専属モデルになる。2019年に上智大学を卒業し、現在はモデル、タレント、YouTuberとして活躍中。