第3回 瀧波ユカリ×アルテイシア対談

ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんの新連載!
毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。第3回も&Sofaでもおなじみ瀧波ユカリさんです! 今回は、友達とのジェンダーギャップや、男性が女性(パートナー)の意見を聞かない&育児に当事者意識がない、など女性の不満が生まれるのは男性の性差別意識が関係しているのでは?ということを語ります。

 

「フェミニズム」と言わなくてもフェミトークはできる

アル:女友達との間にジェンダー意識のギャップを感じてしんどくなる、という話もよく聞きます。     

私自身も、性暴力の話をしているときに「枕営業もあるよね」って言われて噴火してしまったことがあるんです。瀧波さんはそういうことはありますか?

瀧波:私は仕事のことをプライベートの知り合いにも知られているので、あまりないんですけど。でも、一般的にはモヤモヤすることがいっぱいあるだろうなって思います。

たとえば男性は結婚や出産で自分の生活を大きく変えなくてすむ人の方が多いですが、女性はそこに違いが出やすいので。

価値観が違う相手と離れたくなることは、ジェンダーのこと以外にもあると思うんですよ。ただ、もしものときに助けられるくらいの距離にしておくのは大事かなって思います。

アル:たしかに「絶交だ!」って決める必要はないですよね。

私も枕営業発言をした友人が、あとから私のコラムを読んだりして「あのときに言ってた意味が分かった」って連絡をくれて復活したんです。

しばらく距離を置いてみて、それでも相手が変わらない場合は仕方ないとは思いますけど。

昔の友人と疎遠になってしまうのは寂しいけど、今の自分に合う人、居心地のいい人といることが幸せだと思うので。

新たにフェミ友をつくったら、寂しさが減って幸福度がアップするのでおすすめです。新刊『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』には「友達の作り方」を書いているので、読んでもらえたらと。

私は地元の神戸で「東灘区ジェンダーしゃべり場」ってイベントを開催してるんですよ。

「フェミトークできる場所、フェミ友を作れる場所を求めていた」という感想が多くて、同じような取り組みが全国に広がったらいいなと思います。瀧波さんはフェミ友はいますか?

瀧波:フェミニズムだけでつながってる感覚はあまりないです。ただフェミトークするような友人でなくても、「男って…」で始まる話は共通で盛り上がりますよね(笑)。

私は開かれた場では「男って…」という大きな括りで語ることはしないのですが、プライベートな対話では思い切って括って話します。そうすると、女性として長期的・日常的に感じている理不尽や怒りをストレートに話せて共有しやすくなるので。

「男って全然女の話を聞かないよね」「うちの夫はどういう目で女性を見て生きてきたのかな」みたいな話って、根底にあるのは性差別なので、フェミニズムの話をしてるなって思います。

アル:「育児に当事者意識のない夫への不満」とか、膝パーカッションで床が抜けますよね(笑)。

 

男性のジェンダー意識を上げるために

アル:パートナーとのジェンダー意識のギャップについての相談も多いです。

例えばアニメで風呂覗きシーンがあったときに「これは犯罪なんだよ」って子どもに言ったら、「そんなに目くじら立てなくても」って夫に言われるとか。

風呂覗きシーンを見て親が笑っていたら、子どもは「これって面白いことなんだ」と学んでしまいますよね。子どもを加害者にも被害者にもしないことは大人の責任なのに、それが全然わかってない。

あと父親が母親に偉そうにして、母親ばかり家事育児をしていたら「男女とはそういうもの」と学んでしまいますよね。

そういうギャップってどうしたら埋められると思いますか?

瀧波:パートナーの感覚に個人差があるから難しいですよね。

うちの夫は最初から「女の子はこうあるべき」みたいな感覚はなかったんですけど、付き合い始めの頃に「この間料理してくれたけど、ちょっと変なものが出てきたよね」って軽く茶化す仕草をされたことがあって。

最初は気にしてなかったんですよ。でも、ふと過去のクズたちの顔が甦ってきて「このまま受け入れるのはダメかも」と思って「そういうのは嫌なんだ」って言ったら、一切なくなりました。

アル:クズの走馬灯が役立ったんですね。

瀧波:そうそう(笑)。でも、世の中にはやめてって言ったことをわざと言ってくる男性もいますよね。

アル:そういうモラハラの片鱗が見えたら、結婚前だったら別れてしまうのが手っ取り早いですね。

瀧波:たしかに。とはいえ結婚前でも結婚後でも完璧な人はいないので、ある程度ぶつかり合って言いたいことを伝えて「育てる」視点も大事かなって。

アル:そうなんですよ。ここはフィンランドでもニュージーランドでもなく、ヘルジャパンですから。

最初から仕上がってるジェンダーイコール男子はめったにいないので、磨けば光る原石を見つけるしかない。女性の話をちゃんと聞く男性であれば、対話して説明することで、相手のジェンダー意識がアップデートする可能性はあるかなと。

瀧波:夫との対話以前に「こんなこと言ったら嫌われたり不機嫌になったりするんじゃないか」って恐怖心との戦いでもあると思います。実際、そういう不機嫌を利用してやり返す方法との戦いでもあるので。

『無痛恋愛』の中で、主人公のみなみが「男と女でカジュアルセックスは平等といえるのか」って指摘して、男性がプライドを傷つけられて怒るという流れを描きました。

女性がはっきり物を言って、男性が怯む漫画ってここ数年結構見かけるんですよね。男性が言い返せなくなるような言い方を擬似体験するにはいいんですけど、現実は黙って終わりにならないと思っていて。

アル:あの逆切れ男がリアルすぎて吐きそうになりました(笑)。

実際、同じような話を聞くんですよ。女の子が彼氏に「それは性差別だと思う」って言ったら「そうやって僕を傷つける君こそ差別してるから謝って!!」って被害者ムーブでキレられたらしく。

彼女はフェミニズムを学んだおかげで、その男と別れられたそうです。「あのまま結婚してたら地獄行きだった」と言ってました。

瀧波:自分より下と見なしている女性から物を言われて怒ったり傷ついたりする、その男性の有害さが広く共有された状態じゃないと、私たちは安心して主張できないと思います。

女性に指摘されたときに「『俺は被害者だ』ってキレる男は最低だ!」って男性にもっと言ってほしいですね。

アル:「ドントビーザットガイ(そんな男にはなるな)」ですね。

「ノットオールメン(全ての男が悪いわけではない)」とテンプレの反論で女性の口を塞ぐんじゃなく、男性が男性に対して注意してほしいです。

一方で、読者さんからは希望の見える話も聞きまして。夫と離婚を考えていたけど、ダメ元で私のコラムを読ませたら「今までごめん」って夫が謝ってきて、今は職場でフェミニズムの普及に励んでいるそうです。

「おかげで離婚せずにすみそうです」と報告をもらって、そんな奇跡の青汁体験みたいなことあるんや!って(笑)。

でも見ず知らずの私の本を読んだら分かるくせに、なぜ目の前の妻の話を聞かない?とも。パートナーから言われると責められてると感じて、防御や反論に出る男性は多いですよね。

なのでフェミニズムの本や記事をシェアして、パートナーのジェンダーレベルを上げていく方が有効なのかも。瀧波さんは夫さんと話し合いたいときはどうしてますか?

瀧波:「これは言わなきゃいけないな」って思ったときに、前日から「明日の●時から話があります」って予告をして、逃げ道を塞ぎます。相手も心の準備をしてないときに言われると、それだけで傷ついて話の内容以外に余計な要素が加わることもあるので。

アル:瞬間的に相手の発言にムカついた時はどうしてますか?

瀧波:人からもらったヨーロッパのジャガイモを潰すための棒があるんですけど、それで布団を叩いてます(笑)。

アル:ジャガイモを潰す棒で布団を(笑)。夫の脳みそをマッシュしてしまうよりいいですね。

瀧波:瞬発的に怒れることは大事ですけど、その怒りに乗って物申すと、感情を直接ぶつけることになっちゃうので、粗熱をとる感じで「粗怒り」を取るんです。そうすると純度の高い怒りだけが残って、何に怒っているのかがわかりやすくなります。

アル:なるほど。私はエシディシみたいにギャン泣きして、スッキリします。こちらが泣くと、夫も「悪いことをした」と反省モードになるのでおすすめです(笑)。

でも本当に伝えたいことは、メールなどの文章で伝えるようにしてます。その方が相手も冷静になって何度も読み返して、理解を深められるので。


次回、第4回(最終回)では、「一生大黒柱として働く」ことになった瀧波さんが、男性は中高生ぐらいからその意識を持っているから別の大変さがある、と気づいたことなどを語ります。


構成:雪代すみれ

 

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瀧波ユカリ

瀧波ユカリ

漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。