第14回 竹田ダニエル×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第14回は1997年生まれ、カリフォルニア州出身で現在もお住まいのZ世代の新星ライターである竹田ダニエルさんです。4回構成の2回目は、アメリカで育った竹田さんから見える日本とアメリカの社会的スタンスの違いなどについて語ります。

 

自己責任と同調圧力

アル:アメリカの若者は現実が厳しいからこそ、声を上げて改善を求めている。日本は若者に限らず、長時間労働で政治にコミットする時間も余裕もないって人が多いのかも。

その気持ちはわかるんですよ。私もバイト漬けだった大学時代は、明日の米や来月の家賃のことしか考えられなかったから。

その頃より日本はもっと貧しくなって、いまや大学生の約半数が奨学金を受給していて(※)、風俗の求人広告に「奨学金一括返済」と載っていて、返済を苦に自殺する若者もいる。親の経済格差が教育格差につながり、貧困の連鎖が止まらないナウな状況です。

一方、北欧などでは学費が無料で生活費の支援も充実している。自分たちが苦しいのは政治のせいなのに、「稼げない自分が悪い」と自分を責めている人たちに、フェミニズムを知ってほしいんですよ。

「パーソナル・イズ・ポリティカル(個人的なことは政治的なこと)」だと気づけば、自分が生きやすくなるし、政治にも興味が向くんじゃないでしょうか。

※日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査結果」より

竹田:日本では「成功者は努力したり優秀だから勝ち上がった」という考えが強いようですが、裏を返せば「こんなに惨めな生活をしているのは自分の努力が足りなかったせい」という「自己責任」の気持ちがあると思うんです。

でも自分のせいだと認めたくない気持ちもあって、それが政治や権力者に向かうんじゃなく、外国人やトランスジェンダーの人など、より弱い立場への差別的な感情に移っているんじゃないかって思います。

アル:生活保護バッシングとかもそうですよね。「自分たちは賃金が低くて苦しいのに、あいつらはズルい」っていう。そうやって怒りや不満の矛先をそらして、得をするのは権力者です。

竹田:権力者ではなく社会的弱者を攻撃する構造は、アメリカの保守州と近いと思います。
「共和党は絶対に自分たちの味方をしてくれる」と信じているからトランプを支持していますが、必ずしもそうではなく、中絶禁止法が出るなど、自分で自分の首を絞めている状態です。

アル:トランプは新型コロナウイルスを「チャイナウィルス」と連呼して、アジア系の人々に対する差別が激化しましたよね。2020年には、ニューヨーク州だけでもヘイトクライムが867%も増加しているという記事を読みました。

www.cosmopolitan.com

社会的に弱い立場の人にしわ寄せがいく、私は関西に住んでいて同じようなことを感じます。

維新政治によって医療や福祉や教育がどんどん削られて、コロナ禍では病床が削減されて死者数が激増する最中に大阪府知事が「うがい薬がコロナに効く」と発言して、いい加減ヤバさに気づくかな……と思いきや、選挙では維新が圧勝。

86歳の義母が「吉村さん頑張ってるやん、いっぱいテレビに出てるし」と言うのを聞いて、頭を抱えましたよ。

竹田:維新政治を批判する人は少ないんですか?

アル:私のX(旧ツイッター)のタイムラインには溢れてますけど(笑)、そもそも日常の中で政治や選挙の話をしづらいんだと思います。

政治や選挙に限らず、人と違うことを言っちゃダメとか、“正解”を言わなきゃいけない空気がありますよね。

海外留学していた教員の友人たちは「日本の学生はおとなしい、意見を言わない」と口をそろえて言います。

たとえば北欧では教科書をあまり使わず、ディベート中心で授業をするそうです。
「もし意見が違っても、あなたを否定してるんじゃなく、色々な意見があって話し合うのが民主主義なんだよ」と徹底的に教わるんだとか。

「みんな同じであれ」という日本とは真逆ですよね。

女友達が職場でオールジェンダー制服の話をしたら、一人の女性が「私はスカートを着たいから、スカートを選びにくくなるのは良くないと思う」と言ってたらしくて。

「スカートでもスラックスでも好きな方を選べる」って話なのにズレてるし、それだけ人と違うのが怖いんだなって。

竹田:私も過去に日本の塾に通っていたとき、英語のテストの穴埋め問題で不正解にされて、「いや自分アメリカ人ですけど?」って先生に言ったら「まだ習ってない単語だから」と。

アメリカでは「一つの答えが正しいわけではない」という教育を受けるし、「人と違う意見があること自体に価値がある」という考えが強いです。

アメリカは国自体が大きいですし、50もの州があって、カリフォルニア州だけでも日本より大きい。色々な境遇の人がいるので要求も多様で、地域から国のことまで議論点が多いので、日常でもディスカッションすることが多いんです。

アル:日本ではひろゆきの「ハイ論破」「それってあなたの感想ですよね」を小学生が真似していて、世も末です。そんなの議論じゃなく子どものケンカですよね。

竹田:ただアメリカ人は「違う意見を言うことが大事」と教育を受けているからこそ、無意味に逆張りしてくる人もいます。心の中で「こいつ嫌な奴だな」と思っても(笑)、だから話さないとはならないですけど。

取材でそのような話をすると「控えめな日本のZ世代がダメということですね」なんて言われることがあるのですが、そうではなくて社会構造の違いです。

アメリカの場合は自己主張がサバイブの方法なんです。たとえば問い合わせしたら延々とたらい回しにされるとか。日本みたいに「お客様は神様」という感覚がないから、主張しないとナメられます。

子どもの頃から静かにしていると、先生に相手されないし評価が低くなる。自己主張しなければいけないことがストレスになっている人もいるんですよね。

アル:ガッツがないと暮らせない、自己主張しないとナメられるって話はよく聞きますね。海外赴任になってストレスで10キロ痩せた友人もいます(笑)。そのぶんタフになって交渉力も身についたと言ってました。

竹田:子ども達はそういう社会に適応しながら大人になるので、なんとなく聞こえの良いことを言うのが上手になるんです(笑)。


次回、第3回では、「助け合い」と「ルッキズム」について話し合います。


構成:雪代すみれ

 

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竹田ダニエル

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。そのリアルな発言と視点が注目され、あらゆるメディアに抜擢されているZ世代の新星ライター。「カルチャー ×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著作に、『世界と私のA to Z』『#Z世代的価値観』など(ともに講談社)。