第15回 竹田ダニエル×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第15回は1997年生まれ、カリフォルニア州出身で現在もお住まいのZ世代の新星ライターである竹田ダニエルさんです。4回構成の3回目は、アメリカで育った竹田さんと「助け合い」と「ルッキズム」について話し合います。

 

社会的責任と助け合い

アル:中高時代、私は礼拝の時間ずっと寝てたんですが、それでもキリスト教の「隣人愛」は叩きこまれました。「困った時はお互いさまで助け合う」のは当たり前という感覚です。

日本の人助けランキングがビリから2番目という調査がありましたが、社会活動やボランティアや寄付に対して「偽善/売名」と冷笑する空気がありますよね。

私もその手の悪口を言われますが、自分に少しでも影響力があるならば、それを社会を良くするために使いたい。本気でそう思ってるのに「偽善」ってなんやねん、みんなが損得で動くと思うなよって大層ムカつきます(笑)。

竹田:日本では社会的な責任を果たすことを学ぶ機会も少ないですよね。

アメリカの子どもたちに社会的責任について聞いたら、「私は子どもかもしれないけど、一人の市民として意見は大切にされるべきだし、子どもの抱えている問題に大人は耳を傾けるべき」って言うと思います。

日本は知らない人は手助けしない一方で、仲間は大事にしますよね。たとえば、友人の引っ越しを手伝ったりとか。アメリカだと個人主義化しすぎて「頼みごとをするなら人を雇えばいい」という考えが強いかもしれません。

あと個人的な感覚ですが、アメリカ人は上手いこと言うことに長けているから、重そうなことを言ってるようで、言葉が軽いんですよ(笑)。

アル:そうなんだ(笑)。

竹田:日本人は気持ちを打ち明けるのに慣れてないからこそ、本音が出たときの言葉の重さがありますよね。対話に慣れてないからこそ、ちゃんと話そうとしたときの言葉の真摯さが違うと思います。

アル:ああ~それは膝パーカッションかも。口下手な人が一生懸命に話してくれた言葉にぐっとくることは多いです。

あと授業では発言しなかった生徒さんの感想を読むと、いろんなことを真摯に考えていて感動します。

家父長制の強いヘルジャパンでは大人が子どもの話を聞かない、子どもの意見を尊重しないから、子どもは安心して意見を言えないんだと思います。

 

「ルッキズム」にも違いがある?

竹田:アメリカも若い女性の摂食障害は深刻で、K-POPアイドルに憧れて「1週間でりんごを一個しか食べない」といったダイエットをする子もいます。ただ、それは自分軸の美しさの追求であって、必ずしも「モテ」とは繋がってないんですよね。

アメリカでも最近この傾向が増してきたのですが、特に日本では女性の若さや容姿が過剰に商品価値を持たされていることもあり、「“モテ”を意識した容姿を追求し、金持ちの男と結婚する」といったものが一つの理想のルートとして確立されつつあるように感じます。

アル:私が20代の頃の方が、モテ至上主義はもっと強かった気がしますね。女性誌や広告にもモテモテモテの文字が溢れていたし。

「男にモテて金持ちと結婚したい」派の残党がSNSで目立っている一方、巷の女の子たちは「モテや男ウケは関係なく、自分の好きな恰好をしたい」派が多いんじゃないかな。

メーカーの下着部門で働く友人も「ワイヤー入りブラがまったく売れない」と嘆いてましたが(笑)、自分の好みや居心地の良さを追求して、エフォートレスや脱コル(脱コルセット。女性を束縛するものや「女らしさ」の押しつけからの解放)の方向に進んでいる一方、整形YouTuberや美容インフルエンサーを見て、容姿に課金しまくる子もいますよね。

整形YouTuberは「整形して自分に自信を持てるようになった」と言うけど、整形しないと自信を持てない社会に問題があると思います。

中高生から「整形はダメだと思いますか?」ってよく聞かれるので「私も若い頃は容姿コンプレックスの塊だったから、整形したい気持ちはよくわかる。でも容姿以外で自信の持てるものが増えたり、容姿関係なく自分を好きになってくれる人たちが増えることで、コンプレックスが軽くなったよ」みたいな話をします。

竹田:昔だったら「容姿は生まれ持ったもの」という見方が強かったのに、美容情報へのアクセスが容易になったり、化粧品や美容整形の技術が進歩した分「ブスは努力で直るのだから、努力しないことは怠惰」と内面まで判断されるのがきついですよね。男はどうなんだって話ですけど。

アル:私が海外旅行に行って楽だなと思うのは、老若男女がタンクトップに短パンみたいな恰好でぶらぶらしてること。

日本では女性がタンクトップに短パンだとジロジロ見られるし、「そんなに露出してると痴漢に遭う」「触られてもしかたない」とか言われますよね。とにかく明るい安村にそれ言うか?と思います。

あと女の乳首への執着がすさまじい。こんなに乳首乳首騒ぐのは日本だけだし、人の乳首のことはほっとけよ!と思います。

竹田:アメリカも景気が悪いので、かつてのように若い女性が自立して稼ぐことが難しくなってるんですね。

それもあって、最近はオルタナ右翼(ネット発の白人至上主義・排外主義・トランプ支持)がいわゆる「ステイアットホームガールフレンド」のインフルエンサーたちを持ち上げたり、讃えることで「俺たちの理想」を女性たちに押し付けたりしています。

「ルルレモンを着てピラティスをやってスムージーを飲んで体型維持して、犬と一緒にまったり過ごす。仕事を頑張ってる彼氏のために家でご飯を作って待ってる生活」みたいなものを理想として売りつけてるんですよ。

なぜこの話をしたかというと、保守的な価値観に吸い込まれてしまう子はルッキズムに囚われていることが多く、「健気に夫・彼氏のために頑張る主婦・彼女」像に憧れることで、より自分の体型に執着してしまっている人が多いからです。

アル:「男は金、女は顔」という旧態依然な価値観ですね。

竹田:ただアメリカの場合は人種的にも多様なので、そこに違いがありますね。

黒人コミュニティでは痩せていて胸とお尻がない女の子は評価されない、白人コミュニティでは痩せている女の子が評価される、など。
それぞれ体型の悩みはありますが、国全体で見たときには多様なので、コミュニティ外に出たときには日本に比べて他人のことが気になりにくいと思います。

アル:おそらくどんな国に住んでいても、10代って自分の体型が気になるお年頃だと思うんですよ。

スウェーデンのようにジェンダー意識が進んだ国でも、10代の摂食障害は問題になってると聞きます。

だからこそルッキズムにすごく厳しくて、褒める意図であっても、他人の容姿に言及すること自体がNGという感覚が浸透してるんでしょう。

たとえ綺麗ごとだと言われても、大人として「人の価値は見た目では決まらない」「人の外見に対して何か思っても口に出すのはマナー違反だよ」と伝えていくのが大事だと思います。


次回、最終回では、「セルフケア・セルフラブ」についてお聞きします。


構成:雪代すみれ

 

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竹田ダニエル

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。そのリアルな発言と視点が注目され、あらゆるメディアに抜擢されているZ世代の新星ライター。「カルチャー ×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著作に、『世界と私のA to Z』『#Z世代的価値観』など(ともに講談社)。