■生まれた家庭のジェンダー観は?
アルテイシア(以下、アル):『わたしたちは無痛恋愛がしたい』など、瀧波さんの漫画をいつも楽しく読んでます!
早速ですが、この企画ではフェミニズムに目覚めるまでの過程や、ジェンダーのあれこれについておしゃべりできたらと思います。
では、生まれた家庭の話から始めますね。
私自身はネグレクト系の毒親家庭出身ですが、小さい頃から「女らしさ」を押しつけられたことはなかったです。
「女の子だからこうしろ」と言われたこともありません。母は家事や育児が苦手だったので、良妻賢母の呪いもかけられなかった。
ただ、両親ともに悪魔の毒毒モンスターだったので、ジェンダー以外では地獄みが深かったですね。
瀧波ユカリ(以下、瀧波):私も「女の子だからこうしなさい」とは言われずに育ちました。
父親は機嫌がいい時は陽気な性格だけど、キレると手がつけられないタイプ。DVもありました。母親はものをはっきり言う人だけど、父がキレると大変なのでかなり気を使っていました。
それが当たり前の環境で育つと「こんなもんだ」って、おかしいとは思いませんでした。でもそういう環境で育ったことが、男性との付き合い方に影響を与えた部分は大きいと思います。
アル:どんな影響があったんですか?
瀧波:母の姿を見てきたので、女性がはっきりと物を言うことが間違ってると思ったことはなかったんです。
でも父が不機嫌にふるまったりキレたりして、母がフォローする様子を見てきたせいで、付き合ってる男の人の機嫌が悪いと「自分のせいかも」と思ってしまったり、事態が悪くならないように先回りして機嫌を取ったり、そういうことが身についてしまって。
アル:家庭内に機嫌の悪い男性がいると、子どもはそうなっちゃいますよね。
瀧波:だから生まれつきフェミニストな部分と、無意識のうちに家庭で定着した「わきまえ癖」が共存しているのが20代でした。
その感覚をデビュー作の『臨死!! 江古田ちゃん』に反映してましたね。男をナメている感じで言いたいことをズケズケ言うのに、クズとは別れられないという矛盾です。
アル:クズと別れない江古田ちゃんは根気強いな~と思ってました(笑)。
私は20代の頃、恋愛やセックスに依存気味だったんですが、根本には愛情飢餓感がありました。親に無視されて育ったので、寂しかったし甘えたかったんですよね。
現実の寂しさやつらさを紛らわすためにセックスして、その一瞬は忘れられるんだけど、あとから余計に寂しくなってリバウンドして…シャブみたいなものですね(笑)。
そういう自傷行為のような側面があったと思います。瀧波さんは若い頃の経験を振り返ってどう思いますか?
瀧波:はっきり主張すると男性から疎まれるし、男性に好かれないと女の子は価値がないという刷り込みもあったので、混乱してましたね。
そんな状態だと、承認欲求を嗅ぎつけて、興味本位で男が近づいてくるんですよ。そいつらは性的搾取できればいいから、こっちがはっきり主張することを気にしない。
アル:『無痛恋愛』でも「自分らしく生きたい女ほどクズに引っかかるの法則」が出てきましたよね。「女らしさ」を求めてこないからリベラルな男だと勘違いしてしまうって、膝パーカッションでした。
現実は「女じゃなくひとりの人間」として見ているわけじゃなく、彼らは単にやれればいいから、「女以下」の存在なんだって。
私もクズに騙されて搾取されがちだったので、老後は振り込み詐欺に遭いそうで怖いんですけど(笑)。
ただ、私は我慢できない性格に救われたんです。根気がなくて飽きっぽくて「三日坊主」ならぬ「三日大僧正」みたいな人間なので、クズと付き合っても長続きしなかった。そこが江古田ちゃんとの違いですね。
瀧波:いや、実は江古田ちゃんは執着してるようで冷めてるんですよ。その点は自分とも重なっていて。
大学生の頃、彼女がいる男の子と曖昧な関係を2年間続けてたんだけど、それは「観察したい」という気持ちが強くて。
女性に対しては「人としてどうなの!?」という行動をするのに、他の倫理観はしっかりしてたり、同性の間では人気者でいい奴として通用してたり…そういう男性について知りたい気持ちが強かったんです。
アル:なるほど、ファーブル的な観察欲だったんですね。
たしかに「対外的にはいい人だけど、女にはモラハラ」「人権意識は高いのに、バキバキにミソジニー(女性蔑視)」みたいな男性っていますよね。
私の過去で言うと、女子校から大学に進んだ当時は非モテコンプレックスがヤバくて。周りの男子から人間扱いされなくて、「早く人間になりたい…!!」という切実な思いでモテを目指したんです。
なにぶん恋愛の教科書が少女漫画だったので、「『王家の紋章』のキャロルみたいに看病したらモテる!」と錯覚して。好きな男の子が風邪を引いたときに家に押しかけて、追い返されたりしました。
瀧波:キャロルはいっつも看病してますね(笑)。
アル:モテたくてフェロモン香水も買いました!
あと「さしすせそ」的な女子アナ仕草もやりましたが、自分を偽ってモテたとしても、いつかボロが出て破綻するんですよ。
そんな恋愛地獄行脚でボロボロになって「惚れた腫れたはもういい、家族がほしい」と思った29歳のとき、たまたま夫に出会ったんです。それで友情結婚みたいな形で結婚しました。そこから18年続いてるので、私には恋愛より友情の方が向いてたんですね。
夫は「きみの世間に向かって唾を吐いているところが好きだ」と言う奇特な人なので、素の自分でいられてレリゴーです。
瀧波さんは恋愛面で変わったきっかけはありましたか?
瀧波:付き合う前にセックスするのをやめたことですね。「貞操を守りなさい」って教えられたことがなく、良くも悪くもセックスに対する考え方が自由だったし、男性みたいに振る舞いたかった。
でもそれだと上手くいかなくて、夫と出会って友達から始めたらちゃんと付き合うことになって、結婚することになった。順番をきちんと踏むことによって、性的搾取したい人がふるい落とされたんですよね。
アル:付き合う前にセックスしちゃダメとか、純潔であるべきとか全然思ってないんですけど。でも実際にはヤリチンホイホイになってしまいますよね。
瀧波:北欧などのフリーセックスは、多くの男性が女性を対等に見る文化がなければ実現しないかと。特に社会経験の浅い、立場の低い女性だと思うようにはいかない。それはその人に問題があるんじゃなくて、社会的な問題なんですよ。
アル:そうですね。男女が対等な社会じゃないと、対等にセックスを楽しめませんよね。
社会的に立場の弱い若年女性は特に、性的搾取されやすい。本人は対等な恋愛のつもりでも、年上男性にグルーミングされたりとか。
私も若い頃を思い出して「この恨み晴らさでおくべきか…!!」とamazonで藁人形を検索したこともあります。1200円ぐらいで売ってました(笑)。
次回、第2回では、おかしいと思うことは子どもの頃からたくさんあったけど、フェミニズムやジェンダーという言葉で定義づけられると知らなかった、という瀧波さんのフェミニズムへの目覚めについてお伺いします。
構成:雪代すみれ
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作者・編集部で拝見させていただきます。


漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。