毒親の呪いから解放されるまで フェミニズム編(父の呪い)

『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』などで知られるアルテイシアさん。毒親問題からフェミニズムまで、ヘビーな内容もストレスフルな現象もコミカルに楽しく分析してくれるコラム。今回は男らしさについて深掘りします。

 

父は男らしさの呪いに殺された

私の父は69歳の時に飛び降り自殺をして亡くなった。

当時、刑事さんから電話で「お父さんの部屋に遺書が残されていました」と言われて「三年は影武者を立てろと書いてますか?」とボケそうになったが、不適切なのでやめておいた。私も分別のある大人になった。

遺体の確認のため警察署に行った時には、冷たい雨が降っていた。

窓をつたう雨粒を眺めながら「なぜ父は自殺したのかな…」と呟くと、夫に「1985年に政府がプラザ合意に同意したせいだろう」と返された。

「それで日本は円高になってバブル景気が起こり、やがて崩壊した。お父さんはその煽りを食らったんだろう」

その後、事情聴取で刑事さんに「なぜお父さんは自殺したんだと思いますか?」と聞かれて「プラザ合意のせいだと思う」と返しそうになったが、やめておいた。私も分別のある大人に(略)

この時に衝撃を受けたのは、担当の刑事二人組がどちゃくそにイケメンだったことだ。

乙女ゲーの世界にワープした?と汗ばみながら、心の中で「韓流デカ」「ジャニーズデカ」と名付けた。

事情聴取する韓流デカの眼光が鋭くて、うっかり何かを自白しそうになったが、父を殺したのは私ではない。

父は男らしさの呪いに殺されたのだと思う。

父は会社経営に失敗して、多額の借金を抱えていた。父の死後、5千万の借金が出てきて爆死しそうになった…という話は拙著『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』に綴っているので、よろしくどうぞ。

葬式の後、父の元部下の男性が「社長は誰よりも強い男でした…」と話すのを聞いて「だから父は死んだのかもな」と思った。

「男は強くあるべき」という呪いのせいで、他人に弱音を吐いたり、助けを求めたりできなかったのだろう。

 

「失敗を認められない」「競争から降りられない」「男の価値は金と地位」という呪い

また「失敗を認められない」という呪いもあったと思う。

「それ間違ってますよ」と指摘された時に「俺は間違ってない!」と逆ギレするおじいさんは多い。

男はくよくよするな!過去を振り返るな!前だけ見て進め!系のマッチョイズムが染みついているため、自分の間違いを認めて反省することができない、だから永遠に変われない、そんな男性は多いんじゃないか。

父も会社経営に失敗したことを認められなかったのだろう。

私が「借金が膨らむ一方だし商売はもうやめてくれ」と頼んでも、父は聞く耳を持たなかった。そして私に金を無心するたび「次の勝負で巻き返す!」とパチンカスみたいな発言をしていた。

「男社会の競争から降りられない」という呪いもあったと思う。

元部下の男性いわく、父は死ぬ直前まで「商売がしたい」「商売ができないのがつらい」と繰り返していたそうだ。

かつての父は「社長仲間が会社を畳んで、駅前で警備員として働く姿を見かけた。俺はあんな情けないことは死んでもしたくない」とよく言っていた。

子どもに借金するよりよっぽど立派だろうが!ぶっ殺すぞ!と言いたいが、相手はもう死んでいる。

「ブッ殺すと心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!」とプロシュート兄貴も言っている。

父は家族を犠牲にしても競争から降りたくなかったし、勝負を諦めたくなかったのだ。

本人はそれを男のプライドと思っていたのだろうが、そんなのは鼻クソよりもくだらない見栄である。

「男は稼いでナンボ」「男の価値は金と地位」という呪いも強力だったのだろう。

家庭に無関心な仕事人間、は昭和のお父さんあるあるだ。

元部下の男性は「僕は社長に育ててもらいました。社長は厳しかったけど、愛情深い優しい人でした、社長がいなければ今の僕はないです」と号泣していた。

それを聞いて「父親役をやりたきゃ家でやれよ、娘から金を奪ってイキってんじゃねえよ、猿山の大将になりたかっただけだろうが!」と言いたかったが、やめておいた。私も分別のある大人に(略)

その話をJJ(熟女)会でしたら「わかる!うちの父の葬式でも部下の男性たちは号泣してたけど、家ではモラハラ暴君だったから、家族はみんな冷めてたわ」と膝パーカッションで地面が揺れた。

うちの暴君も仕事より家族を大事にしていれば、親子関係は壊れなかった。私も父から愛情をもらっていれば、絶縁することもなかった。

私は父が死んでも泣けなかった、だってもらってないものは返せないから。

 

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1950年生まれの父も、男社会の被害者

「セルフケアができない」という呪いも、父を追いつめたのだと思う。

母が遺体で発見された部屋は壁一面にギャル服がかかっていが、父の部屋はゴミ屋敷だったそうだ。

「そうだ」と伝聞型なのは、私は父の部屋を見ていないから。

父の部屋を見たらトラウマになると思ったので、韓流デカに「捜査のためにアパートを調べたいので、娘さんに立ち合いをお願いしたい」と言われた時に「いやだっぴ☆」と断った。

部屋の立ち合いは拒否することもできるので、親が遺体で発見された時のライフハックとして役立ててほしい。

あとから聞いた話によると、父のアパートはゴミだらけで足の踏み場もなかったそうだ。おまけに風呂もトイレも壊れていたという。

その話を聞いて「父はもう生活を投げ出していたんだな」と思った。

お金がなくても快適に暮らす工夫をしている人はいる。一方、父は女に世話されないとダメなおじいさんだったのだろう。

独居の高齢男性がセルフネグレクトの末に孤独死する話はあるあるだ。自分で自分の世話ができないと人生詰む。

また仕事を辞めて人とのつながりがなくなり、孤独になるおじいさんもあるあるだ。滅私奉公で働いてきた人ほど友達も趣味も生きがいもなく、抜け殻になってしまう。

羽振りがよかった頃の父は仕事仲間と毎晩飲み歩いていたが、それは単なる仕事仲間であって、本音や弱音を話せる友達ではなかったのだろう。

1950年生まれの父も、男社会の被害者なのだと思う。男は泣くな、弱音を吐くな、男は黙ってサッポロビール、と呪いをかけられて育ったのだろう。

父に呪いをかけたのは私じゃないので、私が犠牲になるのはお門違いだ。ただ次世代の男の子たちはジェンダーの呪いに苦しんでほしくない。

「男は泣くな」「弱音を吐くな」と言われると、子どもは自分の傷つきや苦しみを認められなくなる。感情を抑え込むようになり、感情を言葉にできなくなってしまう。

自分で自分の感情がわからないと、他人の感情もわからない。自分の感情を言語化できないと、他人と理解共感しあい、深いつながりを築くことも難しい。

また自分の弱さを認められないと、他人に助けを求められなくなる。弱さを否定してウィークネスフォビア(弱さ嫌悪)に陥ると、他人に優しくできなくなる。

会社員時代の飲み会で、落ち込んでいる後輩男子に先輩が「くよくよするな、飲め!」と酒を注いだり「パーッと風俗でも行くか!」と誘う場面をよく見かけた。

まずは大人がジェンダーの呪いを手放し、男らしさのプレッシャーから解放されてほしい。男同士で感情ケアしあう姿を見せてほしい。

まずは男性自身が生きやすくなって、男の子たちにお手本を示してほしい。そのためにフェミニズムを役立ててほしいと思う。

 

フェミニズムが目指すのは、全ての人が自分らしく自由に生きられる社会

フェミニズムが目指すのは、男らしさ/女らしさに縛られず、全ての人が自分らしく自由に生きられる社会だ。

無理に強くならなくていい、勝ち組にならなくていい、弱いままでも尊重されて幸せになれる社会だ。

私がフェミニズムに出会って救われたように、救われる男性も多いと思う。イメージだけで毛嫌いするのはもったいないよ。

JJ(熟女)は若い子がみんな自分の産んだ子に見えるお年頃。男の子も女の子も守りたいし、腕白じゃなくてもいい、たくましくなくてもいい、みんな幸せになってほしい。

「最近の若い奴は繊細すぎる」とか説教する年寄りがいたら無視してほしい。なんなら脳内でぶっ殺してもオッケーだ。
 
男も女も繊細でいいし、傷ついていいし、泣いていいし、弱くてもいい。自分の弱い部分を認められて、助けを求められることが強さなのだ。

この強さとは人に勝つための強さじゃなく、生きる力としての強さなのだよ。

「アルさんはいろんな困難を乗り越えて強いですね」とよく言われるが、私が乗り越えられたのは強いからじゃなく、本音や弱音を話せる友達がいたからだ。

あとはナチュラルにふざけているからだ。本人的には真面目にしてても「ふざけてますか?」とよく聞かれる。

父の葬式でも「また死人が出たらお願いします」と葬儀屋さんに挨拶するなど、不謹慎さを見せつけた。

そして棺桶で眠る父に向って「お疲れさん、死ぬほどの苦しみから解放されてよかったね」「もし転生とかあるなら、次回は幸せになってね」と心の中で話しかけた。

そんな言葉をかけたのは、父が69歳でさくっと死んでくれたからだ。

これがもし認知症になって施設に入って96歳まで生きてその費用を私が負担してとかだったら、そんなふうには言えなかった。

「早く死なねえかな」と親の死を願って生きるのはストレスだ。そのストレスを娘に与えなかったことは、父の唯一の子孝行だと思う。

そんな父の死を無駄にしたくない、とか1ミリも思ってないけど、このコラムを読んで「男らしさ/女らしさに縛られるのはもうやーめぴ☆」と思ってくれる人がいたら嬉しい。

そしたら父も心置きなく成仏して、スライムや悪役令嬢に転生できるだろう。

 

 

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