毒親の呪いから解放されるまで フェミニズム編

『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』などで知られるアルテイシアさん。毒親問題からフェミニズムまで、ヘビーな内容もストレスフルな現象もコミカルに楽しく分析してくれるコラム。今回は、アルテイシアさんとフェミニズムの出会い編です。

 

押し殺していた感情を解放することで、人は生きやすくなる

「フェミニズムってなんだか難しそう」という方もいるかもしれないが、私は難しい文章は書けないので、気楽に読んでほしい。

現在の私は45歳のJJ(熟女)である。今から20年ほど前に田嶋陽子さんの本を読んだことが、私とフェミニズムとの出会いだ。

当時の私は職場でハラスメントを受けても、自分が悪いと思っていた。「女は笑顔で愛想よく」「セクハラされても笑顔でかわせ」と呪いをかけられて、怒ることは悪いことだと思っていた。

そうして怒りや痛みに蓋をしたまま、自尊心を奪われ続けて、不眠や過食嘔吐に苦しんでいた。

そんな私を救ったのがフェミニズムだった。

フェミニストの先輩方の本を読むうちに、自分を苦しめる呪いの正体がわかった。「私、怒ってよかったんだ」と気づいて「痛いんだよ、足をどけろよ!」と抗議できるようになった。

押し殺していた感情を解放することで、人は生きやすくなるのだ。

かつジェンダー視点から親の人生を理解できたことが、呪いの解放にもつながった。

私の母は23歳で専業主婦になり、40歳目前で夫から離婚されたのを機に、お酒に溺れて自傷行為をするようになった。

当時中学生だった私は「お母さん、ちゃんと自分の足で立ってよ」と思っていた。でも大人になって「母は自分の足を奪われたんだ」と気づいた。

1950年生まれの母には、結婚して夫に養われる以外の選択肢がなかった。つまり、自己決定権がなかったのだ。

祖父母は子煩悩な親だったが、大正生まれの彼らに「経済的に自立できるように娘を育てる」なんて考えはもちろんなかった。

女に学問はいらない、結婚して子どもを産むのが女の幸せ。「早く娘を片付けないと、売れ残りになったら困る」と言われる女たちは、男に選ばれて買われる商品だった。

そんな時代に生まれた母が「若くて美しい、商品として最高値のうちに金持ちと結婚しよう」と考えたのは、自然なことだったのだろう。それ以外の生き方のお手本など見たこともなかっただろうし。

金持ちのボンボンだった父は、わがままで気の強い美人の母に猛アタックしたそうだ。

それでいざ結婚したら立場が逆転して、チヤホヤされるお姫様から召使いにさせられて、40目前でなんのキャリアもスキルもないまま放り出されて、そりゃ壊れるしかなかったんだろうな…と今では思う。

子どもの頃の私は専業主婦の母を見て「楽そうな人生送ってるな」と思っていた。でも実際は夫に生殺与奪を握られて、檻の中でタダ働きさせられる奴隷だったのだ。

 

「若くて美しい女が男に選ばれてハッピーエンド」という呪い

男が支配する社会で、女は嫁にいくと家政婦・保育士・看護師・介護士・娼婦の五役をつとめなくてはならない。そんなの北島マヤでも「だが断る」と言うだろう。

それらの仕事を外注すれば月何十万も払わなきゃいけないけど、妻にやらせればタダである。

夫は妻に不払い労働させておきながら「誰が食わしてやってるんだ!」といばりちらす。おまけに世間からは「タダ飯食いの専業主婦」とディスられる。

「こんなマルチタスクの奴隷、やってられるか!!」と檻を破壊したくなって当然である。

でも檻から出たら生きていけないから、母はいつも不機嫌でイライラしていたのだ。

今ではそんな母を気の毒に思うが、もっと気の毒なのはその子どもである。

母親は抑圧された怒りや苦しみを、弱い立場の子どもにぶつける。このままでは母か自分を殺してしまうと思った私は、18歳の時に家から逃げ出した。

もしあのまま檻の中にいたら、「学習性無気力」になって逃げる気力すら奪われていたかもしれない。

サバイバル編で書いたように、私は広告会社を退職後に毒親と完全なる絶縁を果たした。29歳で夫と結婚した時も当然親には知らせなかった。

ところがどっこいしょういち(JJ用語)、33歳の時、母の妹である叔母から連絡が入った。59歳になった母が拒食症で入院して、生きるか死ぬかの瀬戸際だという。

ICUで管につながれた母は意識障害を起こしていて、私のことを「中曽根さん」と呼んだ。とっさに「やあ大統領、ロンと呼んでいいかな?」と中曽根さんらしく振る舞った私。

私が誰かわからない母を見て「今の母なら愛せる」と思った。今の母なら私を傷つけないから。

その後、母の容体は回復していき、わがまま放題の通常運転に戻った。「入院して気づいたの」と言うので、感謝でも口にするのかなと思ったら「私、もっとみんなにお世話されたい」と言われて「信長みてえだな」と感心した。

天上天下唯我独尊な母は第六天魔王になりたかったわけじゃなく、いつまでもチヤホヤされるお姫様でいたかったのだ。

ある日、しわしわのミイラみたいな母が担当医師に「男の人を紹介して、お医者さんと結婚したいの」と訴えていた。それが母に会った最後になった。

退院から数ヶ月たった真冬の午後、1人暮らしの部屋で母の遺体が発見された。

検死の結果、死因は心臓発作だった。退院後もろくに食事をとらずに瘦せ細り、体が弱り切っていたのだろう。

母の部屋には壁一面、若いギャルが着るような服がかかっていて、そのホラーみに戦慄しながら「母はジェンダーの呪いに殺されたんだな」と思った。

「若くて美しい女が男に選ばれてハッピーエンド」という呪いにかかったまま、死んでしまった女。

その女は私だったかもしれない。私も1950年に生まれていれば、彼女のように足を奪われて、1人で立てない人間にされていたかもしれない。

 

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フェミニズムとは、女性が自由に生き方を選べる社会を目指すもの

母は結婚式のドレスを自分でデザインしたことを自慢していた。白無垢は自分には似合わないから断固拒否した、とも話していた。

花嫁の白無垢には「相手の家の色に染まるように真っ白のまま嫁ぐ」という意味があり、角隠しには「怒りを象徴する角を隠すことで、従順でしとやかな妻となる」という意味があるそうだ。

わがままで気の強い母は相手の色に染まれないし、自分の角も隠せない女だった。それは彼女に自我があったからで、自我はあるのに自立できない地獄を生きていたのだろう。

私の自我の強さは母譲りなのかもしれない。違っているのは、私には選択肢があったことだ。

そして「母みたいな女になりたくない」と思わなければ、私はフェミニズムに興味を持たなかったかもしれないし、物書きにもなってないかもしれない。

「だから親たちに感謝、YO!」なんて言う気はビタイチないが、反面教師としての実力はピカイチだった。

こうしてジェンダー視点から母の人生を理解できたら、気持ちがスッキリした。フェミニズムはデトックス効果も高いのでおすすめだ。

フェミニズムとは、女性が自由に生き方を選べる社会を目指すものだ。

おじいさんたちが言う「今は女の方が強い」とは「昔は殴られても文句言わなかったくせに、文句言うようになるなんて強くなったなお前」という意味である。

また彼らの言う「昔はよかったな~」とは「昔は女を家に閉じこめてタダ働きさせられてよかったな。経済力を奪えば殴っても浮気しても文句言われないし、家父長制サイコー!YO!」という意味である。

彼らにとって良かった時代に戻りたい女性はいないだろう。女にとって今も日本はヘルジャパンだが、その頃より多少はマシなヘルである。

それは「私の主人は私だ!」「女にも人権をよこせ!」と戦ってくれた先輩たちのおかげである。

だから私は「オッス、おらフェミニスト!」と胸を張ることにした。

 

フェミニズムなんて言葉を知らない人でも、フェミニズムの生き方をしている人もいる

拙著『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』には、田嶋陽子さんとの対談が収録されている。その中から一部を抜粋する。

アル 田嶋先生の言葉で大好きなのが「フェミニズムなんて言葉を知らない人でも、フェミニズムの生き方をしている人もいる。勉強した長さじゃないの。その人がどうありたいかなの。だからフェミニズムで人を差別しちゃいけないし、されてもいけない」。

田嶋 そのとおりよ。社会の片隅にひっそり暮らすおばあちゃんがね、まったきフェミニストだったりすることがあるわけよ。それは教えられなくても人間が生まれながらに持っている人権意識を生きた結果だよね。

アル 私は大学で女性学とか学んだわけじゃないし…と思ってたけど、フェミニズムって生き方なんだと思いました。

田嶋 勉強も大事だけれど、自分を見つめる力だよね。だって人から与えられた思想を生きるってことは、そうすべきだとか、自分をそこに合わせることでしょ? それは違うんだよね。私は失った自分を取り戻したくて一生懸命生きてきた、書いてきた、考えてきたと思う。

対談当日は田嶋さんに会った瞬間、感極まって泣くというJJ仕草を見せつけた。

私にとってフェミニズムは、生きるための心の杖だった。バッシングに負けず戦ってくれた先輩たちに感謝して、そのバトンをつなぎたいと思っている。

ちなみに、実物の田嶋さんは太陽神のように後光がさしていた。「冥途の土産にしよう…」と合掌しながら「だが冥土に行くのはまだ先だ、私も一生懸命生きて書いて考えよう」と決意を新たにした。

そんなわけで、次回はジェンダーの呪いに殺された父の話を書きたいと思う。

 

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