過去の恋愛で傷ついて生きづらいあなたへ

『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』などで知られるアルテイシアさん。毒親問題からフェミニズムまで、ヘビーな内容もストレスフルな現象もコミカルに楽しく分析してくれるコラム。今回は「恋愛で傷ついた心の回復法」についてです。

 

パートナーを尊重しない人間はモラハラ要素を持っている。

「過去の恋愛で傷ついて生きづらい」
「幸せな恋愛をしたいのに、ダメな男に引っかかってしまう」

そんな悩みを読者の女性からよくもらう。

だめんず好きという言葉があるが、だめんずとわかって好きになるわけじゃない。

“だめんずの道はモラに通ず”ということわざがあるように(私が作った)、パートナーを尊重しない人間はモラハラ要素を持っている。

モラハラ要素のある男(以下、モラ男)は豹変系が多いのだ。 

DV事件が起こった時も「まさかあの人が?」「優しそうなご主人でしたよ」と近所の人が語るように、モラ男は外面がいい。

はじめは理想の彼氏のように振る舞って、相手が完全に手に入ったと確信したとたん、本性を現す。

そんな騙し討ち系のモラ男が多いため、見抜くのがきわめて難しい。

モラ男の思考の根っこには、男尊女卑がある。彼らは女を対等な人間だと思っていないため、対等に尊重し合う関係を築けない。

モラ男にとってパートナーは「自分が支配する所有物」であり、自分の思い通りになって当然だと思っている。そのため相手が思い通りにならないとキレて、自分の権利を奪われたと被害者ぶる。

そんなモラ男に傷つけられた被害者を「なんであんな男を選んだの?」「男を見る目がなさすぎる」と周りが責めるのはやめよう。

本人が誰よりも自分を責めて、自信を失っているのだから。

 

悪いのは女性ではない。悪い男が女性の長所につけこむのだ。

傷つけられた女性たちは「自分のどこがダメなんだろう、何が悪いんだろう」と悩むが、悪いのは彼女らではない。悪い男が女の長所につけこむのだ。

悪い男が女の長所につけこむのだ。

大事なことなので二度言った。この言葉を写経して仏壇のとなりに貼ってほしい。

そもそも悪党は悪党に騙されない。騙されるのは、彼女らが心根のまっすぐないい子だから。

自分が人を騙したりしないから、騙す男の手口がわからない。自分が人を傷つけたりしないから、平気で人を傷つける男の心理が理解できない。

だから理不尽に傷つけられるとびっくりして「自分が悪いの?」と思ってしまう。

でもそうじゃなく、悪い男が女の長所につけこむのだ(大事なことなので三度言う)。

正直さ、優しさ、寛容さ、純粋さ、我慢強さ、人を信じる心…そうした長所につけこみ、利用して搾取するのがモラ男である。

彼女らは正直だからこそ、相手の言葉を信じてしまう。優しいからこそ、相手の要求に応えて尽くしてしまう。

「拒絶したら相手が傷つくし可哀想」と思うから、イヤでもイヤと言えない。「自分が見捨てたら可哀想」と思うから、つらくても別れられない。

寛容だから、身勝手なことをされても許してしまう。我慢強いから、限界ギリギリまで耐えてしまう。

人を信じる心があるから「相手は変わってくれるかも」と期待してしまう。

それらはみんな素晴らしい長所なのだから、変える必要などない。「女の長所につけこむ男がいる」と学んで、今後注意すればいいのだ。

モラ男と付き合うと、自尊心をゴリゴリに削られる。「おまえが悪い」「おまえが間違ってる」と否定されて、自分はダメだと刷り込まれてしまう。

だから「自分の何がダメなんだろう」と欠点探しをするが、そこで視点を変えて「長所につけこまれているのでは?」と考えてほしい。

そして自分が傷ついたことを認めて、自分を一番にいたわってほしい。

そこで優しさを発揮して「彼のことを許さなきゃ」なんて思う必要は一切ない。理不尽に傷つけられたら許せないと思うのは、まっとうな自尊心がある証拠なのだ。

ただでさえつらいのに「許せない自分はダメだ」と自分を責めて、ますますつらくなるのはやめよう。

 

真の許しとは、どうでもよくなること。

私自身は「恨みを忘れない」が座右の銘で、自分を傷つけた男たちに、せっせと生き霊を飛ばしてきた。

しかし忘却力が自慢の中年なので、相手の名前を思い出せないことがある。これじゃデスノートをもらっても活用できない。

つまり相手の名前も忘れるぐらい、どうでもいい存在になっているのだ。

真の許しとは、どうでもよくなることである。

別れた直後は「全ての地獄を味わって死ね!!」と叫んだ3秒後に「やっぱり彼がいなきゃ生きていけない」と泣くような精神状態になるが、時間がたつにつれて落ち着いてくる。

そして「あいつが生きようが死のうが、どうでもいいわ」と思える時が来る。

過去の私は売るほど失恋してきたが、どんな失恋もつらかった。どんな悪い男でも良いところがあるから好きになったわけだし、良い思い出もあるからつらいのだ。

失恋すると、心にぽっかりと穴が開く。その穴がふさがるまでには時間がかかるが、そんな時こそ友達の出番である。

私が失恋したあと「べつに殴られたとかお金盗られたとかじゃないし…」とめそめそ泣いていたら、女友達が「ヤツはとんでもないものを傷つけた、あんたの心だ!!」と銭形警部のように怒ってくれて、ボロボロになった自尊心を回復できた。

友人たちは失恋旅行にも付き合ってくれて、旅先で朝、ひとりで海岸を歩きながら「大切に思ってくれる友達がいるのだから、私も私を大切にしなければ…彼への未練を断ち切ろう」と決意。

その誓いを忘れないために、砂浜で綺麗な貝殻を拾った。その後、宿に戻って昼寝していたら「洗面所にゴミあったからほかしたで」と貝殻は捨てられていた。

友人たちは元彼に「股クサ男」「ビチグソ太郎」といったニックネームをつけて、悪口大会をしてくれた。そこで思いっきり呪詛を吐き出したおかげで、少しずつ心が軽くなっていった。

「一度は愛した人なんだから」「感謝の気持ちもあるでしょ」とか、しょうもないこと言わない友達で本当によかった。

 

モラハラ沼にはまりがちな人は、血中フェミ濃度を高めるのがおすすめ。

拙著『モヤる言葉、ヤバイ人』には、モラ男に狙われないための護身術&モラ男と別れるためのライフハックを書いているので、よかったら参考にしてほしい。

私はモラハラ沼から脱出した後、男に対する信用残高がゼロになり、恋愛に絶望していた。

だからこそ「惚れたハレたはもういい、家族がほしい」「自分を削らずにピッタリ合う、おせんべいの片割れがほしい」と心から思えた。

その結果、友情結婚のような形で夫と結婚した。もっと前に夫に出会っていれば「恋愛センサーがびくともしないし、無理だな」とスルーしていただろう。

モラハラ沼から脱出した友人たちは「もっと早くフェミニズムに目覚めていれば」と語る。

「たしかに豹変前は見抜けなかったかもしれない。でも豹変後は『こいつはヤベえ、男尊女卑のクソ野郎だ』『自分は男に踏みつけられていい存在じゃない』とちゃんと怒れたと思う」

「当時は私自身も『妻は夫に尽くすもの』的なジェンダーの呪いを刷り込まれていた。それで我慢してしまったけど、その呪いがなければもっと早く脱出できたと思う」

彼女らの言葉に全力で膝パーカッションだ。

20代の私は、まだまだフェミ濃度が足りなかった。

「オッス、おらフェミニスト!!」という姿勢で生きていれば、股クサ男やビチグソ太郎はそもそも近づいてこなかっただろう。「こいつ支配できなさそうだし面倒くさいな」とスルーされていただろう。

周りを見ても「男尊女卑な男はお断り!!」とアピールして婚活していた女子は、パートナーと対等に尊重し合う関係を築いている。

よってパートナーがほしいけどモラハラ沼にはまりがちな人は、血中フェミ濃度を高めるのがおすすめだ。

血中フェミ濃度が高まると自尊心が高まるので、「私が悪かったのかな」と自分を責めている人も「いや、どう考えてもあの男が悪くね?」と気づき、過去の恋愛を成仏させることができる。

また中年になると過去のつらい記憶も薄れるので、生きやすくなる。若い方たちはそんな加齢の恩寵を楽しみにしていてほしい。

 

 

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