毒親育ちの良いところをプレゼンしたい

『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』などで知られるアルテイシアさん。毒親問題からフェミニズムまで、ヘビーな内容もストレスフルな現象もコミカルに楽しく分析してくれるコラム。今回は「毒親育ちゆえの美点」について考えます。

 

人の痛みがわかり、友達を大事にし、サバイバル能力が高い!

毒親育ちは生まれながらにハンデを負う。

私も「毒親育ちで良かったことなんかなんもねえわ」と思っていたが、案外そうでもないことに気づいた。

もちろん毒親育ちもいろいろだ。今回はあくまで私が見てきた範囲で、毒親フレンズの良いところをプレゼンしたい。

■人の痛みがわかるところ

なんせ売るほど痛みを経験してきたため、他人の痛みを理解・共感できる。周りの毒親フレンズを見ていると、人の心に寄り添える優しい人が多いと思う。

優しさや共感力はなんぼあってもいいですからね。

子どもは親を選べない。そのため、毒親フレンズは選べないもの(家庭環境、人種、性別、セクシャリティ、障がい、貧困…等など)のせいで理不尽に苦しむ人、社会的に弱い立場の人に思いやりがある。

ゆえに社会問題や政治に関心が高い人、ボランティアや支援活動などを行う人も多い。

■友達を大切にするところ

「血は水より濃い」みたいな言葉を聞くと、毒親育ちは吐血する。

血縁!!それが俺たちを苦しめるッ!!

という人生を送ってきた毒親育ちは、血縁以外のつながりを大切にする。我々にとって友達は命綱でありセイフティネットだから。

そうやって友達を大切に生きていると、中年以降の幸福度が爆上がりする。

どんなに仲良しでも親は大体先に死ぬし、パートナーとは離婚や死別もありうる。一方、友達は何歳になっても何人でも作れる。

私は一人では生きていけない人間だと自覚していたから、友達を作る努力をしてきた。詳細は『友達の作り方~ゴリラ型で生きたい人へ~』を参考にしてほしい。

■サバイバル能力が高いところ

毒親育ちは戦場を生き延びてきたソルジャーなので、サバイバル能力の高い人が多い。

私も18歳で実家から逃げ出して、バイトしながら自活してきた。さんざん苦労はしたけれど、実家にいた頃に比べたら2億倍マシだった。

「毒親に生殺与奪を握られる地獄に比べたら、なんぼのものか」とふんばってきたので、いざとなったら何やってでも生きていく自信はある。

しかしながら、あんまり生きたくないのが問題だった。

毒親育ち由来の生きづらさから「いつ死んでもいいや」と思っていたが、この連載で書いたようにいろいろやってみた結果、生きづらさが激減した。

そして「腕白でもいい、長生きしたい」と生きる気まんまんの中年が爆誕した。

生きたくない理由を追求するより、生きづらさを減らす方がおすすめだ。生きづらさが減れば「生きるのも悪くねえな」と思えるから。

そうすれば、毒親育ちは最強のサバイバーになれる。なのでいろいろ試しながら、とりあえず生きてみてほしい。

■前半はハードだけど、後半はハッピーなところ

人生前半はハードモードでつらいけど、年を重ねるにつれて幸福度が上がるのが毒親育ちあるあるだ。

私も人生の幸福度を折れ線グラフにすると、ぶっちぎりで右肩上がりだ。

毒親に支配される奴隷状態から解放されただけでも「今の私、げっさ幸せやな」と実感できる。

逆に前半が順風満帆だった人は「昔と比べてつらいかも」「人生ってハードなのね」と思いがちなんじゃないか。

DV家庭で育った友人が「今はボーナスステージだと思ってる」と話していて「わかる!」と膝パーカッションした。

私も「前半に一生分の苦労はしたし、あとはのんびり生きよう」と隠居老人、もしくは退役軍人のように暮らしている。

40歳までどうにか生き延びたんだから、余生気分で気楽にやろう。そう思えることも、幸福度が上がる鍵かもしれない。

■親が死んでも平気、むしろめっちゃホリディなところ

私は親が死んだ時に「二度とモンスターに怯えずにすむ」という安心感と解放感に包まれた。葬儀場で「イエ~~イ!め~っちゃホリディ♪」と踊り出したい気分だった。

一方、親と仲良しの友人は親の介護をしながら「介護鬱になる人の気持ちがわかる…」と言っていた。

私は「もらってないものは返せない」と書いているが、彼女は「私は親にいっぱいもらったから、返したいと思うんだよね。それで自分を犠牲にしてでも頑張ってしまう」「とにかく親がつらそうなのが一番つらい」と話していた。

そんな彼女に「愚痴でもなんでも聞くから頼ってね」と言っている。生まれ育った環境が違っても、人は理解共感しあえるから。

私も老猫の介護をしていた時、猫がつらそうなのが一番つらかった。愛する猫が死んだ時は悲しすぎて死ぬかと思った。

親が死んで悲しめる人が羨ましかったけど、そこにはまた別のつらさがある。みんな違って、みんなつらい。 

それを実感するのが、親が倒れたり死んだりしがちな中年時代かもしれない。

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毒親育ちだから幸せな結婚ができた

「毒親のいる私と結婚したら相手に迷惑をかけてしまう」
「私みたいな人間は幸せな結婚なんてできないんじゃないか」

そんなコンプレックスをずっと抱えていたけど、いろんな夫婦を見てきて、毒親育ちゆえのプラス面もあることに気づいた。

■スペックじゃなく中身に注目するところ

毒親フレンズは「スペックとかどうでもいい、大切なのは中身や」という視点でパートナーを選ぶ人が多い。

「父親がハイスペモラハラだったから、条件に騙されたらアカン!と心眼を研ぎ澄ませた」

「父のモラハラに耐える母を見て育ったため、男に養われることが恐怖。だからパートナーの稼ぎにはこだわらなかった」

「とにかく心根が優しくて、家事育児を分担できるパートナーを選ぼうと思った」

そんな話をフレンズからよく聞く。不仲な両親を反面教師にできるところも、毒親育ちの強みと言えるだろう。

■トラブルに強いところ

たとえばパートナーの身内にトラブルが起こっても「俺はそういうのは得意だ、バッチコイ」と受け止められるし、「チームで戦っていこうぜ」と支え合える。

結婚は単なる箱で、中身は50年の共同生活。50年の間にはあらゆるトラブルが起こるので、苦しい時に支え合えるパートナーを選んだ方がいい。

そういう点でも幾多の苦しみを乗り越えてきた毒親フレンズはおすすめだ。

■家庭を大事にするところ

毒親育ちは「ようやく手に入れた巣を壊してなるものか」という思いから、家庭を大事にする。

実家が地獄だったぶん今ある幸せに感謝するし、「あの地獄から救ってくれてありがとう」とパートナーにも感謝する。

私も自分を受け入れてくれたアナルガバ夫を「ありがてえ、なんまいだぶ」と拝んでいる。

もし何不自由ない家庭で育っていたら、実家と比べて不満を抱いたかもしれない。

実際マザコンやファザコンで実家と密着している人や、「親はこんなにしてくれたのに」とパートナーに不満をぶつける人もいる。

親や親族となるべく距離を置きたい人にとって、毒親育ちはベストパートナーと言えるだろう。

■形にこだわらないところ

毒親育ちが求めるものは平和である。

平和に安らかに暮らせれば十分と思っているため、「豪華絢爛な結婚式を上げたい」とか「タワマンに住んで摩天楼から地上を見下ろしたい」とかあんまり言わない。

「結婚」にキラキラした夢や憧れがないぶん、地に足がついた考え方ができる。

私も夫と暮らせればよかったから、結婚式も指輪の交換も何もせず、婚姻届を出すだけというシンプルスタイルを選んだ。それなら5分でできるしタダである。

もし三井のリハウスみたいな家庭で育ったら、「結婚はこうあるべき」と理想のモデルに縛られたかもしれない。

幸せの形は人それぞれで、自分たちに合った形にカスタマイズすればいい。そんなふうに思えるのも毒親育ちの良い面ではないだろうか。

■婚活に必死のパッチになれるところ

私が法律婚を選んだのは、親と戸籍上も離れたかったからだ。

独身時代は「もしいま救急車で運ばれたら親に連絡がいってしまう、延命処置とか治療の方針とかあいつらに決められるなんて死んでもイヤだ」と思っていた。

だから必死のパッチでパートナーを求めていた。

また「惚れたハレたはいらない、家族がほしい…!!」という切実な思いで、婚活という戦場に臨んでいた。もし私が毒親育ちじゃなかったら「婚活ダリぃし、もういいや」と諦めていただろう。

だからといって、毒親育ちでよかったなんて1ミリも思わない。私も親から愛されて育ちたかった。

ただマイナスしかないと思っているところにもプラスはある、と伝えたかった。

繰り返すが、毒親育ちもいろいろで「自分はちっともあてはまらない」という人もいれば「いくつか身に覚えがあるな」という人もいるだろう。

毒親育ちの良いところやプラス面に注目する文章はあまりないので、少しでも希望につながれば幸いだ。

 

 

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