毒親カムアウトする側とされる側の虎の巻

『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』などで知られるアルテイシアさん。毒親問題からフェミニズムまで、ヘビーな内容もストレスフルな現象もコミカルに楽しく分析してくれるコラム。今回は「毒親カムアウトについてのあれこれ」をご紹介します。

 

トラウマに負けないために

今でもたまに親が夢に出てくる。

それで汗びっしょりで目が覚めて「よかった…もう死んでるわ」と安堵のため息をつく。

毒親のトラウマは完全には消えないけど、毒親由来の生きづらさは減った。それは毒親の話を聞いてくれて、理解してくれるフレンズがいるからだ。

敵を知り己を知れば百戦危うからず、と孫子パイセンも言っている。負けないためには敵を知ることが大事だYO! という意味である。

トラウマに負けないためには、トラウマを正しく知ることが大事だメーン!

というわけで、いろんなトラウマ本を読んで研究してきた。

その中で私のおすすめは、精神科医の水島広子さんが書いた『対人関係療法でなおすトラウマ・PTSD』という本だ。

詳しいことは本を読んでほしいが、素人の我がトラウマについて学んだことを書きたい。

トラウマの回復には、支えてくれる味方がいたか? 1人で抱えなければならなかったか? がもっとも大きな影響を与えるそうだ。

自分の信頼する人(友人、パートナー、家族など)がトラウマを理解してくれること。「つらい目に遭ったんだから、そういう感じ方をするのは当然だよ」と認めてくれること。

それによって「自分の感じ方は正常なんだ」と安心して、じょじょに自信が回復していく。

ところが、トラウマの知識のない人は「過去に縛られすぎないで」「つらい過去は忘れて前へ進もう」とアドバイスしたりする。

相手はよかれと思って言うのだが、それはむしろ逆効果になる。

本人は忘れたくても忘れられなくて苦しんでいるのだ。それなのにそんな言葉をかけられると「過去に縛られる自分はおかしいんだ」「前へ進めない自分はダメなんだ」とさらに自信を失い、不安になってしまう。

ありのままの感じ方を否定されると、「どうせ話してもわかってくれない」と1人で抱え込んでしまう。

1人で抱え込まないこと、信頼できる人に話を聞いてもらうこと。

ありのままの感情を否定されず、理解して受け止めてもらうこと。その積み重ねによって、不安や苦しみが軽くなっていく。

 

安心して毒親の話ができる場所を見つけよう

トラウマのある人が過去の記憶を思い出すのは、とてもつらい(とてもつらい)。けれども何度も思い出しながら話しているうちに、その記憶に慣れていく。

皆さんも怖い漫画を読んで眠れなくなったことがあるだろう。私も山岸涼子先生の『鬼』を読んで3年ぐらい夜中にトイレに行くのが怖かった。

でもその怖い漫画を百回読み返したら、どんどん慣れて怖くなくなる。それと同じ寸法である。

昔は私も親のことを人に話すのがつらかった。でも自分でも飽きてゲップが出るぐらい親のことを話したり書いたりするうちに「どうでもええわ」という気分になってきた。

どうでもいいと思えるぐらい、親の存在が小さくなったのだ。そして気づくと「傷は癒えた!!」と拳を突き上げるラオウ状態になっていた。

目指せラオウ。

というわけで、安心して毒親の話ができる場所を見つけよう。

プロのカウンセリングを受けたり、毒親コミュニティや自助グループにつながるのもおすすめだ。こういうのは相性が大きいので、自分に合う人や場所を見つけてほしい。

 

親しい人に理解してほしい場合は…

でもやっぱり親しい人に理解してほしいし、味方になってほしいもの。それが回復につながる大きな鍵になる。

「毒親カムアウトするのが怖い」「わかってもらえなくて、もっと傷つくことになるんじゃないか」と悩むフレンズは多い。

毒親育ちじゃない人には理解されないんじゃないか、「そんなことあるの?」と信じてもらえないんじゃないか…と不安に思うし、実際に私もさんざん傷ついてきた。

「親も大変だったんじゃない?」「愛情はあったと思うよ」「親も完璧じゃないから」「親子って揉めるものだよ」「ちゃんと話し合ってみたら?」

そんな言葉を返されるたび「違う、そうじゃない!!」と脳内で鈴木雅之が大暴れ。

話し合ってわかりあえる親なら、そもそも苦しんでいないのだ。何度も何度もトライしては裏切られ、絶望してナウなのだ。

もし私がいじめの被害者だったら、そんな言葉を返すだろうか?

「加害者も大変だったんじゃない?」「愛情はあったと思うよ」「相手も完璧じゃないから」なんて絶対に言わないだろう。

毒親育ちは親からいじめを受けて育ってきたのだ。親から愛情を受けて育った人には、そんな地獄が想像できないのだろう。

かつ「親は子を愛するもの」「親子は仲良くするべき」という刷り込みもあるし、「人様の親を悪く言うもんじゃない」という遠慮もあるのだろう。

毒親にもいろんな種類がある。暴力や暴言系はまだ理解されやすいが、過干渉や束縛系は「親も心配してたんだよ」「子を思う親心でしょ」と返されがちだ。

そう言われると「あなたは親に行動を監視されて何もかもに口出しされる生活をしたいですか?愛情と支配は違いますよね?」と早口で返したくなるが、実際には言い返せない。

「やっぱりわかってもらえない…」と絶望して、それ以上話せなくなる。

といった事態を避けるために、毒親カムアウトする際は「私の言葉を否定せず、ジャッジもアドバイスもせず、ただ聞いてもらえると嬉しい」と事前に伝えるのがおすすめだ。

 

おすすめは、メールや手紙などで全部伝えきること

もっとおすすめなのは、文章で伝えることである。

毒親の話をするのは、とてもつらい(とてもつらい)。気持ちが高ぶってうまく話せなかったり、涙があふれて言葉に詰まってしまったりする。

あるいは「深刻なムードになると悪いな」と遠慮してしまって、軽い調子で話した結果つらさが伝わらなかったりもする。

なので、メールや手紙などで言いたいことを全部伝えきるほうがいい。

相手も不意打ちだと反応に困るけど、文章なら何度も読み返して理解を深められるし、どんな言葉を返そうかと推敲もできる。

というわけで、レッツ作文!!

文章は長くなってオッケー、むしろ長文の方が思いが伝わる。過去に親からされてつらかったことや、今の自分の気持ちを正直に書こう。

そのうえで「私の言葉を否定せず、ジャッジもアドバイスもせず、ただ話を聞いてもらえると嬉しい、それだけで救われる」など、相手への要望も書こう。

そうすれば、気のきいた言葉やアドバイスを返さなきゃ、と相手も誤解せずにすむ。

こちらは気のきいた言葉やアドバイスは求めていないのだ。それで救われるぐらいならとっくに救われてるし、他人が思いつくようなことはさんざんやり尽くしてナウなのだ。

以上のことを、毒親カムアウトされる側に知ってほしい。

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毒親育ちの気持ちがわからない…と悩む人へ

自分には毒親育ちの気持ちがわからない…と悩む人もいるだろう。でもわからなくていいし、むしろわかったつもりになってほしくない。

こちらは「わかりたいけどわからない。けど、わかるために努力したい」と思ってくれる存在がいることに救われるから。

LGBTQに関する記事に『同性を好きになる感覚を理解する必要はなく、「自分が異性を好きになるように、同性を好きになる人がいるんだな」と頭でわかっていれば十分で、心までついていかせる必要はありません』とあった。

毒親についても同じである。「自分は親を好きだけど、親を嫌いな人もいるんだな」と頭で理解してくれればいい。

かつ「親を嫌いたい子どもなんていなくて、嫌うのには相応の理由がある。親を愛せないことに本人が誰よりも傷つき、自分を責めている」ことを理解してほしい。

そのうえで「それだけ傷ついてきたんだから、親を嫌いなのは当然だよ」と肯定してくれれば、心から救われる。

毒親カムアウトされた際は、余計なことを言わないのが一番だ。

故郷の村を焼かれた人に「つらい過去は忘れて前へ進もう」なんて言わないだろう。それは相手の傷つきを軽視していることになる。

とにかく、相手の言葉に真摯に耳を傾けてほしい。「それはひどいね」「それはヤバいね」というシンプルな返しもうれしい。

そう言われると毒親育ちは「やっぱりうちの親ってヤバいんだ」と安心するから。

毒親育ちは腫れ物扱いせず、普通に接してほしいと願っている。なので「こんな話を聞いちゃって、どっどどどどうどどうしよう」と動揺せず、カムアウト後も今まで通りに接してほしい。

 

カムアウトされる側に知っておいて欲しい言葉

ラオウは「ならば神とも戦うまで!」とやる気まんまんだったが、毒親からは逃げるが勝ちだ。テロリストとは交渉しないのが一番だ。

とはいえ、逃げたくても逃げられない場合もある。

なので「イヤなら会わなきゃいいのに」「なんで縁を切らないの?」とか、他人が気安く言うのはやめよう。

毒親育ちは「親に会いたくないけど、会わなきゃもっと大変なことになる」と経験的に知っている。

鬼電や鬼LINEしてきて「会わなきゃ死ぬ」と脅迫して、自宅や職場に突撃するなど、過激なテロ行為に及ぶ毒親も多い。

私も母の鬼電を無視していたら職場に奇襲をかけられて、マジで殺しそうになった。

俺たちは親を殺さないだけで百点満点!! とフレンズは胸を張ってほしい。そして毒親カムアウトする際は、先方にこのコラムを読んでもらうのもいいかもしれない。

毒親カムアウトされる側は、以下の言葉をメモってほしい。

「大変だったね、話してくれてありがとう」
「親と仲良くするのが正解じゃないよ」
「誰が何を言おうと、私はあなたの味方だよ」

この3つの言葉で十分なので、メモを冷蔵庫の水道屋のステッカーのとなりに貼ってください。

次回は「毒親育ちの良いところ」について書きます。

 

 

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